16.最後の“夜”




月日が流れるのは早い。特に、何かに熱中している時は。
そろそろ現世任務の任期が終わろうとしていた。




「応援要請が来てる、向かいましょう」
「「はっ」」

私が現世に来てから一年。つまり、あの“失敗”から一年が経った。仕事をしながら訓練し、経験を積んだ。一応私も席官だ。部下を従え、現世の治安を守る。虚を倒し、迷える魂魄を輪廻の輪に乗せる。それが今の私の仕事。
この一年で改めて実感したことがある。私は、平子隊長のことが好きだった。いや、今も好きなのだと思う。職業病なのか、今までは“仕事”での関わりはプライベートには持ち込まなかったし持ち込もうともしなかったのに、彼の場合は違った。それに、たくさんの男性と会って、お酒を飲んで、多少のスキンシップもあったけれど、彼と同じように感じる人はいなかった。あの時はそんなふうに思わなかった。でも、気づいていないだけで好きだったのだ。多少ドキッとすることはあったし、これ以上は考えないようにしようと努めていた時点で気づけばよかったのだ。あんなことをしたのは私だけれど、それでも今も彼の隣を歩きたいと思うし、抱きしめられた時の彼の体温がとても恋しい。
でも、私にそれを願う権利はない。
仕事とはいえ、彼を裏切ったのだから。もし、今後彼と顔を合わせる時が来たら、私は平静を保っていられるだろうか。そう思った瞬間、思わず笑みがこぼれた。
私は二番隊の諜報員だ。そんなの、出来るに決まっている。この一年で心身ともに鍛えられたはずだ。当たり前にこなせる。そう自分に言い聞かせた。

現場に着くと、三体の虚に手こずる他隊の部隊がいた。何度か共闘したことがある部隊だ。特に彼らに声をかけることも無く、端から刀を振るっていく。

「春原十二席!」
「怪我を負った者はいますか?」
「重症者はいません!」

手を止めることなく、負傷者の確認をする。軽傷者はいるようだけれどまだ全員動けるし四番隊への要請は不要だろう。最後の虚が倒されるのを確認して、刀を収めた。

「応援感謝します。無事に虚を倒すことが出来ました」
「いえ、困った時はお互い様ですよ」
「そういえば、春原十二席は近い内に帰還すると聞いておりますが…」
「はい、来週には尸魂界に戻ります」
「それは残念です。とても頼りにしていましたので」
「そう言って貰えて光栄です。お力になれたこと、誇らしく思います。報告に関してはそちらの隊にお願いしても?」
「勿論です。ありがとうございました」

そう頭を下げる他隊の席官に背を向けた。一年暮らした現世を離れることは寂しくはなかったが、尸魂界に戻ったら物足りなくなるだろう。“訓練”出来る場はなくなるけれど、その分仕事に全力で取り組むまでだ。
現世を離れるのに丸一週間の期間はあるけれど、引き継ぎもあるし“訓練”は今日が最後になるだろう。

「今日はお疲れ様でした。また明日もお願いします」

私は部下にそう声をかけ、夜の街に繰り出した。


最後の“夜”
今夜が私の集大成
 
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