12.余計な感情 諜報活動の対象だったということが彼にバレてしまい、事の詳細を彼に白状した足で私はそのまま二番隊に戻った。無理矢理話を終わらせた。彼も、これ以上聞いても無駄だと思ったのか特に何も言ってこなかった。ただ、彼のあの顔が頭から離れない。こればかりは、なるべく早い内に砕蜂隊長に報告せねばならない。失態だ。そう、私の失態。 「失礼します」 「入れ」 隊首室の戸に手を掛け一瞬ためらったが、すぐに力を込め、隊首室に入った。 「砕蜂隊長、」 「なんだお前か。先程話は終わったはずだが」 こちらをちら、と見た隊長だったが、すぐに目線を手元の書類に戻してしまった。 「申し訳ございません。先程の連絡を“対象”に聞かれてしまい、調査していたことを知られました」 隊長は手を止め、こちらに視線を向けた。 「…平子真子か」 「はい」 「奴に裏は無かったのだろう?」 「はい、半年に渡り彼自身とその周辺を調査しましたが、特に害をなすような要素はありませんでした」 「わかった。それで、お前はどう事を収めて来たのだ」 「え?」 膝をつき、頭を下げて報告していたが思いもよらない質問に顔を上げてしまった。 「男女交際、という形をとっていただろう」 「ああ、はい。確実に怒ってらっしゃいましたので別れたことになるかと…。しかし、今回の任務はご理解いただき、内密にしてくださると約束していただけましたのでご安心を」 「そうか。まあ奴も隊長だ。こちらの事情も理解しているだろう。問題は無い。ただ、今回は対象が身内且つ問題のない者だったからまだいいが、次はそうとは限らん」 「はい。重々承知しております。今後、絶対にミスは犯しません」 私はそんなに実績があるわけではない。私より経験を積んだ人はたくさんいる。私の首なんて些細なことですぐに飛んでしまうだろう。今回は許してもらえたけれど、次はわからないのだ。 「…お前が真面目なのも知っているし、仕事についても、まあまだ荒いところはあるが期待している。失敗など言語道断だが、今回はいい経験をしたと思え」 「はっ。必ずご期待に応えます」 もういい、と言われたので隊首室を出た。隊舎を歩きながら、私は自分の中に渦巻く感情を必死で抑えた。 緊張。悲壮。羞恥。憤怒。そして、罪悪感。 全部心の奥底に押し込めた。私はこんなものに浸っている時間はない。さっさとそんなものは忘れて、前を向かないと。 余計な そう、私にはいらないもの ×
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