11.晒された真実 場所変えるで、と言う彼にコクリと頷いた。彼の後ろを黙ってついていく。そんな私を彼は振り返りもしなかった。 着いたのは五番隊の隊首室。普段なら人の多い廊下も、今日は人が少ない。隊士の殆どが出払っているようだった。最近、北流魂街で虚が多いと聞く。そんなことを考えていると、平子隊長が口を開いた。 「…で?言いたいことはないんか」 いつも聞いていたはずの声なのに、全く知らない人の声のようだ。余りにも私への態度が以前とは異なる。それは仕方ない。私が、裏切っていたのだから。 「…ありません」 「さよか。じゃあ、こっちから聞くわ」 一瞬の沈黙の後、平子隊長が息を吸う音が聞こえた。 「お前、誰やねん」 私が黙っていると、はあ、と溜息が聞こえた。 「いくら護廷十三隊でも、外部のヤツがのこのこ隊服着て歩いているのを見過ごすモンはおらんやろ。せやから二番隊の隊士って言うのはわかってんねん」 「……はい、私は護廷十三隊二番隊十二席、春原です。それに間違いはありません」 「……“マリア”ってのは?」 彼にどこまで話していいものか。事実として、彼への疑いは晴れている。ほぼ、だけれど。もう私について黙っていることは不可能だろう。 「…私のコードネーム、です」 「ほー。で?その“マリア”の対象ってのは誰なん?」 「それは言えません」 「……俺やねんな」 「…答え、られません」 私の返事に平子隊長がイライラしているのがわかる。 「さっき伝令神機で、“半年経った”って言うてたやろ」 「……」 「その為に、俺と付きおうてたんか」 「……」 「黙るってことは、そういうことやねんな」 もう黙っていることはできないと思った。それに私は二番隊も辞めさせられるだろう。仕方ない。わたしの驕りが全ての原因なのだから。 「…今回の私の任務は、護廷十三隊隊内における諜報です」 「ほお。俺は身内にスパイされてたっちゅーことか」 「…私の“対象”は護廷十三隊五番隊隊長でした」 「……」 「騙すようなことをされて、気分を害されたと思います」 「せやな」 「誠に申し訳ございませんでした」 「……」 頭を下げた私に平子隊長は何も言葉をかけてこなかった。いっそ罵ってくれればよかったのに。どんな言葉でも受け入れるつもりだった。何をされても文句は言えない。手を出されても私は抗えない。それに責めてくれた方が私の心が楽なのに。 なのに、彼は何も言わなかった。 「それから…私が言える立場ではないことは分かっていますが、このことは他言無用でお願いいたします」 「…調子のええこと言ってるってわかっとんのか」 「それを承知でお願いしております」 このことが外部に漏れてしまえば、現世から戻って来た人達に同じように探りを入れている他の仲間にも迷惑をかけてしまう。二番隊の信頼の失墜にも繋がる。頭を下げ続ける私に平子隊長は溜息を吐いた。 「…わかった。このことは誰にも話さへん。二番隊の邪魔したいわけやないしな」 「…ありがとうございます。その恩情に感謝致します」 自分でお願いしておきながら、なんて理解のある人なのだろうと思った。本当に私なんかには勿体無い人だった。 「ただ、一つだけ聞いてもええか」 ふと、言葉の雰囲気が変わったのに気付き、私は顔を上げた。目に入ってきた彼の顔は、私が知っている表情だった。 「…任務に支障がないことなら、お答えします」 「さよか。じゃあ、聞くわ」 「はい」 「お前は俺のこと、好きやったか」 喉の奥がひりつくように痛い。自分の中のもう一人の自分が喉を掻き毟っているかのようだった。何も考えられないし、何も答えられない。自分の体じゃないみたいで口が動かない。それでも無理矢理声を絞り出した。 「…それは、お答え出来ません」 晒された真実 それを聞いた彼の顔が 歪んだ ×
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