17.貴方は何を思うの


「京楽さんと、付き合うとるんか?」
「…………は?」

自分でも驚くほど間抜けな声だったと思う。身構えていたことと全然違う質問をされて、理解するのに時間がかかった。京楽さん、って京楽隊長のこと?京楽隊長と私が付き合っている?何の話をしてるのだろう、彼は。ポカンとしている私に彼は言葉の雨を降らせた。

「今日、一緒に飯行っとったやろ?仲良さそうやったし、話す時距離近いし、あの人あんな感じやけどええ人なのはわかっとるしな。それに、俺がいない間お前のこと支えてくれとったならそれは仕方ないことやし…、って俺がそれを言える立場にないことは重々理解してんねん。ただ、」
「待って」
「でも俺はな、」
「だから、待ってってば!」

私は彼の言葉を遮った。私はソファーから立ち上がり、彼を見下ろす形で言葉を投げた。カッとした。先日の口を開くだけでも緊張していた時とは違い、考えなくても口からポンポン言葉が出てくる。

「何熱くなってるの、真子らしくない。それに私は誰とも付き合ってない。京楽隊長とは、今も過去にもそんな関係だったことはない。分かった?」
「わ、かった」

彼には絶対に言われたくない質問だった。私が真子以外の人を好きになるだなんて思って欲しくなかった。彼の驚いた顔が視界に入る。少し、言いすぎた、かも。立ち上がってしまった手前、下手に座ることも出来ずそのまま立ち尽くしていた。

「……俺はお前に聞きたいことや言いたいことが仰山あんねん」

彼は一口お茶を啜った。私も落ちつこうと、ソファーに座り直した。

「何であの時姿を消したのか、この百年ちょっと俺がどこで何をしてたのか。お前は気にならへんのか、俺のこと」

私は何も言えなかった。彼が何を考えているのかも理解しようとしたけれど、脳も心もそれを拒否した。

「俺はこの百年、お前のことずっと考えとった。百年もほっといた男のことなんて忘れて、他の男と結婚して子供産んで、それでお前が幸せならええ、とは思えへんかってん」

そう思い込もうとしてた時期はあってんけどな、と苦笑する彼は私の知らない彼だった。そんな顔、見たことない。私の知らない時間を彼は過ごしていた。改めて、それを突きつけられた気がした。

「現世にいたのは知っとるやろ」
「……は、い」
「向こうにおってもな、お前にコンタクト取れるわけやないし…。最初の頃はな、お前も待っててくれるんとちゃうか、って漠然と思ってたんやけど、日が経つにつれ、そうは思えんくなってなァ。過去に縛られても幸せにはなれへんって、誰でも思うことやしな」

彼は、なにか物語を話すかのように淡々と言葉を連ねていた。

「こっち戻って、五番隊の名簿見て驚いたけど、納得したんや。お前は待っとってくれへんかったんや、ってな。…それでも諦められへんかって、五番隊の記録遡っても、除隊ってことしかわからん。でも護廷十三隊はそないに簡単には抜けられるもんやない。せやから事情を知ってる京楽さんにお前のこと聞いたんや。統括経理に移ったって。けど、俺からは会いに行けへんくてなァ」

お前が他の誰かと、なんて考えたら足が動かへんかってん、と彼は苦笑した。

「あの日、振り返ったお前を見て、何も言えなかったこと後悔しとる」

彼は、静かに顔を上げて私を見据えた。

「お前は今、何を思ってんねん。教えてくれへんか?」

方は何を思うの
先にそれを、教えてよ


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