13.裂くような優しさ


「……あっ、こっち、です」
「さよか」

送るわ、と言われた手前、下手に断れず彼に家まで送ってもらっている。けれど。
彼は私の家を知らない。百年前の家からはとっくに引っ越している。そのため道が分岐しているところではタクシーの運転手に頼むかのように伝えなくてはならない。何度も同じ会話を繰り返す。家までの足取りが重い。別に送ってくれなくてもいいのに。道案内以外の会話はない。彼も話さないし、私も話さない。

「もう、ここで大丈夫です」

家まであと50メートルもない。玄関で見送ってもらうのは気が引けた。彼に家を知られたくない、とかではないけれど気まずさは変わらない。彼の眉がちょっと動いたのがわかった。

「なんや、玄関まで送るて」
「すぐそこのマンション、なので」

マンション、と言っても瀞霊廷内にあるものなので外観は和風集合住宅、といった感じだ。

「じゃあ入口まで送るわ」
「……はい」

相変わらず強引なところは変わらない。強引、というか、人の言うことを聞かない、というか。彼の背中を見ながらそう思った。そしてマンションの入口まで二人で歩く。私は大きく息を吸った。

「ここです。夜遅いのに、送っていただいてありがとうございました」
「何でそんな他人行儀やねん。にしても、えーとこ住んでんなァ」
「……給料だけはいいので」

そう、統括経理は給料がかなりいい。まあ嵩んだ残業代、と言ってしまえばそれまでだが。私は一人で住むにはかなり広めの部屋に住んでいる。百年前、早く引っ越したい一心でお金を貯め、新築のここに引っ越した。当時の家には住み続けられなかった。あそこには、思い出がありすぎて、耐えられないと思ったから。部屋にあった彼のものも全て処分した。そう、全て。

「なんやねん、その目ェ」

はっとした。彼には今、私がどんな風に映っているのだろう。

「そんな目ェ、せんでもええやろ。送り狼にはならんわ」
「いや、えっと、」
「ほな、あったかくして寝ェや」
「、はい」

彼はそういうと向きを変えて猫背で歩き出した。私がずっと見つめているのが分かったかのように曲がり角で手をひらひらと振った。
なんで。どうしてそんなことするの。


くような優しさ
百年前も、貴方はいつも
曲がり角で手を振っていた


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