05.百年前から動かない


急に目元が明るくなり目が覚めた。眠い目を擦りながら、頭を働かせる。中途半端に開いたカーテンから光が漏れている。昨日はそのまま寝てしまった。時計を見ると、出勤まで大分余裕がある。シャワーを浴びようと立ち上がった。

シャワーから出て髪を乾かし着替える。いつも通りの朝だ。袖を通し、襟を整える。その手に何かが落ちた。また、だ。特に何かを考えているわけでもないのに、急に涙が出てくる。ポタポタと落ちてくる涙を他人事のように思いながら、着替えを続ける。私が泣いていても、差し伸べられる手はもうない。

この百年間、ずっとこうだ。私は前に進めない。いや、進もうとしない。彼が会える距離にいようがいまいが、関係ないのだ。過去に蹴ってしまったお見合い話を受けていたら、私は幸せだったのだろうか。結婚して、子供を産んで、家業を手伝ったり、子育てに勤しんだり。私が拒まなければ、普通の幸せは手に入っていたのだろう。私が泣いていても、それを拭ってくれる手が近くにあっただろう。いっそそうしていれば。彼を忘れて、違う人の手を取っていれば。こんなに人知れず苦しまなくて済んだのではないか。こんなこと、何百回何千回と考えてきた。けれど答えは出ない。ここまでくると、正しい正しくないではないのだ。

勝手に出てくる涙とため息を押し殺し、化粧をする。やはり目が腫れぼったいが仕方ない。今日も普段と同じ。そう自分に言い聞かせて家を出た。



年前から動かない
動けないんじゃない
動かないんだ


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -