11.蜂蜜色の声
ザンザスはきらを見つめながら考え事をしていた。

きらはルッスーリアとドレス選びに奮闘している最中だ。
来週はのパーティーはボンゴレ側にとってただのパーティーではない。
クリスマスパーティだと銘打っているが実際はお披露目パーティーの様なものだった。

我らがボスの婚約者を迎え入れているルッスーリアは、その事を当然の如く理解しており、ザンザスの横に居るのがふさしい様に、とやる気に漲っていた。

結果、きらはドレスを代わる代わる試着させられていた。それにザンザスが何故ここにいるかというと、パーティ用のスーツの新調をと9代目に指示されたからである。

きらと違ってザンザスは早々に終わってしまい、さっきまで椅子で眠りこけていたところだった。
気付けばルッスーリアは貸し切った部屋にはいなかったが、手洗いか電話だろうとザンザスは姿をさがすのをやめた。


一方できらは5着目のドレスを試着し始めていた。

うーんと鏡の前で迷っている婚約者には少し疲れた顔が見られながらも、綺麗になったと誰もが言いたくなる人が多いだろう。
ここにきた時は感情を押し殺した様で、いまいち瞳の奥が見えなかった。しかし、この間の言い合いではどうだろうか。彼女はしっかりと自分が貶された事に抗議をしていた。また、自身の過去を話している時のきらには弱さなど微塵にも感じられなかった。
特に瞳は打って変わって水底に落ちた宝石の様にうるみを持った輝きなのを、誰よりも最初に気づいたのはザンザスだった。


ザンザスは起き抜けの頭で仕事の事を考えていたが、気付けば自身の婚約者に思考を奪われていたのだ。
くびれが綺麗にしまって見えるように作られたドレスは、きらの女性らしい曲線を強調していたのだ。

そのくびれに優しく腕を回し、自分の体に引き寄せて口づけをしたらどうなるのだろうか。
うっとりとした表情で自分を見つめてくれるだろうか。それとも恐怖に顔を歪めるだろうか。ザンザスは自分が白昼夢を見ていたのかと疑問になる程、無意識でありながらも鮮明にきらを思い浮かべていた。婚約を反故にしようと企てているのにも関わらず、こんな風に思ってしまうのは何故だろうか、とザンザスは胸の内に芽生え始めている感情に無理やり蓋をした。

すると鏡越しでぱちりときらと目があった。いつから彼女が自分に気づいていたのか、自分が見つめていたのかザンザスわからなくなった。

「早く、スーツ終わっちゃいましたね」

「そうだな」

沈黙が訪れる。きらは会話ってどうすればいいんだろうと、後ろで脚を組み座り、窓から外を眺める彼を鏡から見て思った。
首元は開けているが、濃いネイビー色のシャツの上から黒のセーターを着ている。
首も鍛えている様で、太く逞しい首に酷く男性性をきらは感じた。
またじろじろみんなって言われるな、と視線を鏡台に戻した。

頬に多幸感が宿っている様にザンザスには見えた。
髪の毛もつやつやと輝き、イタリアに来た時の不安定さは感じられなかった。
勿論きらはザンザスがこんな事を考えているとはつゆ知らず、ルッスーリアがアクセサリー選びから戻ってくるのを待ち焦がれた。

「どれにするのか決まったのか」


やっぱりザンザスからの質問はいつもドキッとするものだと、きらは少し肩をあげた。

「まだ、決まってないです」

「今着ているのは華美すぎる。3着目のが似合うから、それにしろ」

指摘された今着ているドレスは赤色にラメが入っており、光にあたるときらきらと眩い光を放つものだった。
ザンザスの言った3着目のドレスは膝が隠れる程度の長さで、背中はV字に浅く開いたデザインである。肩から胸元にはさりげないレースがあしらわれ、背中の方はほとんどレースだが素肌が透けないものだ。

たしかに、きらも1番しっくりきたデザインだった。レースが素敵だと思ったし、衣装負けしない気がしたのだ。クリスマスパーティに赤色のドレスを着る勇気がなかったきらには有難い助言だと感じれた。ルッスーリアは納得してくれるかな?と急いで着替えて部屋から飛び出す。

試着用に貸し切った部屋の外でアクセサリーをあーでもないこーでもないとやっているルッスーリアに緑色のドレスを着て向かい、決めたのと告げた。

「ザンザスさんが、これが似合うって言ってくれたの」

ルッスーリアはサングラスをしっかりと掛け直し、驚く仕草を見せた。寒空を飛んでいた天使が真っ赤なハートをここに落としたんだわ!とルッスーリアは喜んだ。

真っ赤なハート?と思ったが、何よりもルッスーリアが納得してくれた事が嬉しかった。
試着大会から解放されたからだ。
そして、似合うって言われたのって結構すごいのかなときらは夕食の時に改めて思った。

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