調査_太陽の装い人
他の幹部よりも、形が見える話ぶりに調査員は安堵しました。
「信じられないわ、あの子が死んだなんて」
ルッスーリアはそう言いながら調査員を庭の奥へと案内します。見せたいものがあると言うのです。調査員はそれが何なのか、全く予想もつきませんでした。せいぜい、ねむるが生前愛ていた花だとか、そう言うものだろう、と。でも、実際は違いました。古きヴァリアー城にはまだ真新しそうなガラス張りの、とってつけたような建物でした。
「これでも馴染ませたのよ」
調査員の思考を読み取ったのか、ルッスーリアの言葉に焦り首を振ります。真新しさは綺麗に磨かれたガラスのせいかもしれませんし、外壁の年数が明らかに違うように見えるせいかもしれません。でも、決して不恰好では無かったのは事実です。
「具合が良い日は外に出たりしたけど、殆ど少なかったわね」
具合が良い、とは言ってもどこかか弱そうなねむるの姿を思い浮かべます。ぷっくりと幸福が詰まったような頬は、いつの間にか痩せていて、艶やかな髪の毛もいつしか秋を知らせる木々のように乾燥するのが常になっていました。その姿を見るたびに自分は胸を痛めていた、とルッスーリアは思い出しました。元気な姿を見知っていた時間は長い筈なのに。思い出されるのは、病にかかり、弱っていったねむるの姿ばかりでした。
「沢山植えたわ。彼女の寝室に行って、花を写真で見せながら決めたの」
「サンルームの建築はねむるさんのご要望ですか?」
調査員の言葉にルッスーリアは眉頭を潜めます。わざとらしく無知に振舞っているのか、事実確認のためなのか。どちらの声音とも取れない様に少し苛立ちましたが、極めて冷静に答えます。
「いいえ、ボスよ」
「どうして、サンルームを?」
サングラスがあってよかったかもしれません。調査員には、ルッスーリアがどんな風に瞳を動かしていたかわからないのですから。
「体が弱って外に出れない事が増えたからよ。大急ぎの建築だったわ」
言いたい事はたった一つですが、ルッスーリアは明言しませんでした。苛立つ気持ちが煙になり、心臓を隠し始めました。
「ねむるさんは喜んでいましたか?」
「寝室でいるよりも、ここに居る時間のが多かったわね」
「それは何故ですか?」
一言でまとめて言えるものか。言えたとしても教えるものか。心臓の底、溜まっていた苛立ちが、藻が湖の色を変えるように浮かび上がります。
「彼女にとって大切な贈り物だったのよ。それに、外が恋しかったし、花が好きだったから」
調査員は腕時計を確認し、スマートフォンの録音もついでに確認しました。そして、胸元から小さな手帳を出して、あ、と言う顔をしてこう言いました。
「ねむるさんとザンザスの写真をいただけませんか、難しい場合はコピーでも」
「ないわ。二人は写真が嫌いだったの」
ピシャリ、扉を強く閉めるような口ぶりに調査員は驚きます。何か琴線にでも触れたのだろうか。それが何かはわかりません。でも、ルッスーリアの表情は強張っていました。
「サンルームで十分伝わるでしょう。どれだけ、ボスがねむるを想っていたか。どれ程わたし達を疑えば気が済むのかしら」
見せれるものは何もないわ、そう言い切られ調査は終わってしまいました。