調査_嫉妬を司る悪魔と同じ

『騒ぎは起こすな』

ザンザスの声がレヴィ・ア・タンの頭でふと、浮かび上がります。それでも万が一に備えて8本の傘をそれぞれ、きちんと手順を飛ばす事なく点検しました。
こんなにも許し難い日はない、と彼は思います。ねむるの死から程なく、きっとまだザンザスの足元に広がる湖は凍ったままだったのに、ボンゴレは妻を殺したのではと疑いをかけてきたのです。

彼の敬愛してやまないザンザスがどれ程ねむるを愛していたかは、他の誰よりも知っているつもりでした。彼が仕えてから、幾人の女性がザンザスの元を去ったのを見てきました。去ったのか、ザンザスがそうさせたのかは曖昧なようですが。

『あなた私のこと好きじゃないんでしょ』

ねむるが車の後部座席から話しかけてきた事を思い出します。その言葉が衝撃だったのもありますが、その日は彼女の妊娠がわかった日でした。日付もはっきりと覚えています。そう告げるなりねむるは堰を切ったように泣き始め、レヴィ・ア・タンはどうすべきかわかりませんでした。後にも、多分、後にも先にもねむるのように言ってくる女性はいないでしょう。レヴィ・ア・タンが彼女を嫌っていたのは、ザンザスが嫌っているように見えたからです。特に、彼女が着たばかりの頃。醜く激しい争いを経て、和解もまだ出来ていなかったティモッテオから条件として渡された婚約者をレヴィ・ア・タンは認めていませんでした。だって、ザンザスが認めていませんでしたから。
大層不服な決定でした。勿論、レヴィ・ア・タンには自分の敬愛するザンザスから向けられる眼差しが減る、という不安や嫉妬もあったかもしれません。そうであったとして、ザンザスに不義理や彼を悩ませる女性は恋人であっても、許すつもりはなかったのです。

でも、レヴィ・ア・タンの出番はありませんでした。彼女はザンザスのことが最初から好きだったようなのです。ルッスーリアに言われるまで気づいていませんでしたが。
それでも、レヴィ・ア・タンはねむるを警戒していました。でも、彼女は今までザンザスが蜜月を過ごしたどんな女性よりも、公平に接してくれる人でした。
彼はねむるにそっけなくしていましたが、彼女は気にせず接してくれたのです。
誕生日プレゼントだってくれました。

『サボテン、育てやすいよ』

屋敷をよく空けるレヴィ・ア・タンにねむるは育てやすい癒しを、と選びました。
そのサボテンが日に当たりやすいように、位置をほんの少しだけずらして自室を出ます。
きゃーっとねむるとザンザスの子どもが階段下から上へ駆けていく声がしました。
その後ろから、待ってくださーいと気の抜けた声が続きます。

つい1年前までは、ねむるが子どもたちと駆け回っていたのに、とレヴィ・ア・タンは少し感傷的になりました。そして、あっという間に病に蝕まれていったのです。
何かと鈍感だ、と言われる事が多かった彼ですが、そんな彼でもはっきりと気付ける程の出来事がありました。
ねむるの病が発覚した後のある大雨の日、彼女はザンザスとバルコニーの屋根の下ベンチに座って居ました。遠くにある森はすっかり雨で霞がかり、当たりはどこか白んだ鼠色に染まっています。ねむるはザンザスの肩に頭を乗せて、ザンザスも折り重なるように自身の頭を彼女の上に重ねたのです。
彼らがどんな会話をしていたかは知りません。でも、レヴィ・ア・タンの中で最もザンザスの背中が寂し気に見えたのです。彼の誇大妄想かもしれませんが、それは置いても、彼はその時初めてザンザスは確かにねむるを愛しているのだと思ったのです。

だから、こんなくだらない噂で調査員を派遣されるのは失礼甚だしい、と思ったのです。
調査員の待つ部屋に行けば、扉が開け放たれています。レヴィ・ア・タンは果敢に部屋に入り、こう叫びました。


「ザンザス様がねむるを殺す事などありえない!!」

2メートル近くある男の声はよく通りました。調査員は驚き椅子から立ち上がります。
ですが、レヴィ・ア・タンに悟られないように平静を装いながら言葉を続けます。

「それを今日、聞きに」

「ねむるの死因は病だ!診断書が揺るがぬ証拠だろう」

「あの、偽造を疑われ」

「どこまでザンザス様を侮蔑するつもりだ!」

先週のベルフェゴールと違って今日は建設的な会話が出来るだろう、と期待していた調査員はがっかりしました。レヴィ・ア・タンは不器用でありながらも非常に真面目と聞いていましたから。勿論、今回もベルフェゴールと同様に査問は難航しました。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -