調査_王子との謁見

騒動を治めるため、ティモッテオ様がねむるは殺されていないと信じていたとしても調査の報告は必要でした。その為、調査部隊はヴァリアーの幹部のスケジュールに合わせては彼らの住まう山奥、森に守られたように聳え立つ城に何度も何度も向かいました。

不思議で不確かな逸話があります。というのも、彼らの城はかつては神を信じない領主の城だったのです。当時は教会よりも高い場所に建物を建ててはいけませんでしたが、その領主は神などいない、と言い張っては教会を見下ろす形で城を建てたと言い伝えられています。

さて、そんな話はさておき、最初の査問対象はベルフェゴールでした。

「うぜー」

調査員は彼の言葉にも負けず、ラップトップを取り出しては質問をしました。
彼にしか見えませんが、この画面に映し出されている全ての質問を幹部全員から聞き出せなければ、この仕事は終えられません。幸か不幸か、この調査員は大変真面目でした。
腐っても調査班の人間ですから、中立な立場でいる必要があります。けれども、初回がベルフェゴールなのはこたえたようです。

「ねむる様について教えて下さい」

「はあ?関係ねーだろ」

ベルフェゴールは不愉快そうに、椅子の背もたれに肘をかけては首を傾げてみせます。

「ねむる様と仲が良かったと聞いておりますが」

調査員の質問には答えません。ベルフェゴールは髪の毛の先をいじりながら窓の外を見ます。春だというのに今日の気温はとても低く、閉まったはずのコートが恋しくなるような日でした。調査員は彼と同い年くらいでしょうか、それでも伊達にボンゴレの調査部門に所属している訳ではありませんから、質問を変える事にしました。

「ねむる様とは過去にお会いした事がありますか?」

「過去っていつ?意味わかんねーんだけど。何なのお前」

ベルフェゴールは不愉快でした。ねむるの葬儀から一ヵ月も経っていません。死に触れる機会は職業柄多い方ですが、彼女の死はまだベルフェゴールの胸には沈んでいないのです。湖面に浮かんだ花から目が離せないように、彼の眼差しも少し後ろ向きでした。だから、こんな状況に、彼の親愛なるボスであるザンザスがねむるを殺したと言う根も葉もない噂をもとに調査に来る事が許せなかったのです。
そして、こんな心を許していない人間に、ましてや会った事もない人間にべらべらとねむるの事を話すのは嫌でした。

「例えば、ザンザス様とご結婚される前とか」

「覚えてるわけねーじゃん」

「・・・そうですか・・・。すみません、お待ちください」

調査員がタッチパッドに触れて、指を下に動かしています。表情を読み取れれば良いものの、ベルフェゴールの高貴な瞳は初夏の入りを思わせる薄レモン色の三日月のような、金髪に隠れていてわかりません。でも、慌てる調査員とは逆に、ベルフェゴールはねむるを思い出していました。

彼にとってみればはるか前の事です。クーデターを起こす前、まだ幼い頃でした。
スクアーロに手を引かれてやってきたパーティーにねむるはいたのです。
顔はぼんやりとしていますが、彼女はつまらなさそうにパーティー会場を眺めていた瞬間は、ベルフェゴールの記憶にはっきりと残っていました。まだ少女だったねむるは父親と来ていましたが、足が痛い、という理由でバルコニーのベンチに腰掛けに来ました。それが、二人の出会いでした。ねむるはお皿にいくつものデザート、そしてスプーンとフォークを持っていました。

『なんでここに居るの?食べる?』

ちょうどその頃の彼は激しい食わず嫌いで、パーティーには食べれる物が何もありませんでした。だから、彼女が食べる筈だったスイーツを食べる事にしました。
誰と来たのか、保護者はいないのか、と心配されていたのも覚えています。でも、暫くした後、ザンザスが広間からバルコニーへやってきた所で彼の記憶は途絶えます。その後幾年も経ち、ザンザスの側に寄りつく女は大体誰でも嫌いでしたが、嫁いできたねむるにはそんな印象がありませんでした。どうしてかはわかりません。ベルにとって彼女は、チョコラータ・カルダの上に乗った真っ白なクリームのようでした。

「えっと、ベルフェゴールさんがまだ十歳にもならない頃・・・」

調査員の声がねむるの顔をかき消します。そして、口の端を不愉快そうに曲げ、こう言いました。

「ねむるがバルコニーで靴脱いでた事しか覚えてない」

そうですよね、と上辺だけの同意と共に、やっとキーボードを叩く音が部屋に響き渡り始めました。


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