春の湖の下、

それはそれは、春だった筈の湖を凍らせてしまうような出来事でした。
ザンザスの妻であるねむるの死がそれをもたらしたのは、言うまでもありません。
最も誰よりもその寒さを感じたのは、他でもないザンザスです。本人はきっと認めませんが。
何せねむるはヴァリアー城を照らした春でした。ザンザスにとってみれば、誰よりも愛おしく、誰よりも大切な女性でした。残された子ども達はねむるの、母親の死を理解するにはまだ早かったようですが、いつもよりもずっと静かな父親を見てはただ事ではないと思っていたようです。それは幹部だけではなく、部下たちもそうでした。いつもとは違う、寒々しい城の中で喪に伏せていました。

しかし、葬儀を終えた後に起きたとある騒動が、湖の氷を溶かします。
皮肉にも近いでしょう。その氷を溶かしたのは、ザンザスの怒りの炎だったのです。

というのも、遠い昔、彼が復讐に全てを注いでいた時でした。
ザンザスが犯した数々の反旗の傷跡は癒えても、許さないという者がボンゴレの内部にいるのです。勿論、組織として機能していない、と訴える人間もいます。どうにかして彼に痛い目を合わせたい、彼の脚を引っ張りたい、という人間がいました。そう願う人間はザンザスに酷い事をされた人間でしょう。だから、ねむるが死んだと言うのはその人間にとってはまたとないチャンスでした。

「ねむる様は確かに、病死だったのか?ザンザスに殺されたのではないか?」

夫であるザンザスからしてみれば、侮辱も甚だしいものです。けれども、彼が選んできた行動がもたらした結果ですから。たった一人の声ではありましたが、不運な事に守護者に近しいファミリー内でも重要なポジションについていた人間の声でした。
彼はかつてのクーデターで息子を失っていますから、このような発言をするのもおかしくないのかもしれません。そして、この男の声に乗りファミリー内ではまことしやかに妻が殺されたのではないか、という噂が広まります。

ザンザスとねむるは政略結婚でした。
彼女はイタリアから地中海の外まで、海運を握る家の次女だったのです。港には昔から裏社会の人間がかかわっている、そう言われていますがボンゴレも漏れずにそうでした。
彼女の家も港の安全が保たれる、と両親は大喜びでねむるの婚姻を決めました。ボンゴレにとってみれば港一つを手中に収めたものです。どこのファミリーも、素知らぬふりをして港を荒らしては金を巻き取る事が出来なくなったのです。

そして、この婚姻はザンザスへの謹慎処分の解除の条件だったのです。

「彼はこの婚姻を利用したに違いない、邪魔だったんだ」

ねむるの殺害を唱えた男ははっきりと会議で断言しました。年を取ると自分の経験から勘と言うものを生み出しては、思い込みが激しくなりますから。最初は多くの人間が疑っていましたが、次第に男の言葉に尾ひれがつき始め、ボンゴレの中を優雅に泳ぎ始めてしまいました。
ティモッテオ様も否定はしましたが、周囲にはすっかり、怪しい魚が居座るようになってしまいました。そこで、ボンゴレの調査部門がヴァリアーに派遣される事になりました。

今回のねむるの死は、決して息子の問題行動ではないと証明する必要があったのです。
勿論、ヴァリアーがその決定を快諾するわけもなく激しいやり取りの後、幹部達が調査に協力する事になりました。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -