01:恋人以上恋愛未満
薄紅色のバラが微笑んでいる。一輪一輪が、冬と春の間の柔らかな太陽の陽を受けて、甘やかに微笑んでいる。そのバラの花びらが一瞬で吹き飛ぶ様で、花びらを目に入れない様にとつむったら、季節はとっくに春となっていた。

日本に帰国してからはそんな日々だった。
卒論を終え、単位は足りているけども好きな教授の授業を受けて、アルバイトをこなし、離れ離れになる前の友人たちと遊んだ。
空に浮いているような気持ちだった。別れの春なのに、桜を一輪一輪を愛でる様に思い出を作っていった。儚くて、蜜がたっぷりと詰まった桜の花がいくつも生まれた。

『貸せ』

空港でザンザスさんに携帯を奪われ、連絡先を入れられたのを思い出す。

どういう事?と思ったが、ああそうか。ルッスーリアが後ろで微笑みを浮かべ、しーっと指差していた光景が思い出される。私に対する努力だと受け取っていいと確信した。彼の真新しいスマートフォンに傷は一つもなかった。

パーティでの事件を経て、彼と私達は互いを想い合うほどに距離が近づいた。
帰国間際に彼から告げられた一言は日本語では表せなかったようで、イタリア語だった。あなたを気にかけている、いや、こうじゃないか。でもそんな感じかな。
日伊のみならず、外国語と母国語のボキャブラリーの当てはめは難しい。
その時の私の手は彼の大きな手に握られていた。このまま口づけをされるぐらいに距離が近かったが、またもやベルに邪魔をされてしまった。

メッセージの通知が光り、画面を叩くとベルからの連絡だった。ザンザスさんは随分と画面の下に降りていってしまった。

『毎日連絡取らないなんてありない』

きつい一言をよくいってくる友人の言葉が思い出された。
たしかに周りの友人らはよく彼氏と連絡を取っている。でも生業が暗殺の彼らが頻繁に連絡をくれたらどうだろうか。何だか、マメな印象は頂けない。
そうは言っても少なくとも週に一度はザンザスさんから連絡が来ていた。
電話だったり、メッセージだったり。
どれもこれも短いものだけれども、きちんと彼の無事を認識出来るだけでこれ以上の贅沢はないと思えるのだ。

後はバレンタインに薄紅色のバラも送られてきたし、私は十分なほどに満たされていた。ザンザスさんが自分を気にかけてくれているということで、心が暖まったのだ。こんな幸せなことはあるのだろうか、自分の想う人から想われるなんて。
その暖かさを自分の中に留めたくて何度も何度も寝る前に思い出しては、幸せな気持ちで眠りについた。

眠りについたのに、予定がないからアラームを切っているのに、音がなっている。誘き寄せられた意識によって目が開く。青い空が視界に入り、音の方へ手をのろのろと伸ばした。
Xanxusと画面に出ている。夜に想った男から電話がるなんてロマンティックなのかもしれない。

「カスがやらかした。明日の早朝に専用機をつけるから、ベルとイタリアに来い」

「えっ、どういうことですか」

「詳しい話はベルにさせる。また連絡する」

またね、という言葉も言えずに言われずに電話は乱暴に切られた。声に怒気が含まれており、何かが起きた事は想像がついた。
きっと苛立ちスクアーロがいれば何か投げつけるだろう。
でも久しぶりの連絡がこれって、明日の朝の飛行機ってそもそも私アルバイトも一週間後まであるのに?

私の穏やかで麗らかな春は雨雲が立ち込めていた。
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