プロローグ
ルッスーリア は神に感謝したくなった。
青々と輝くスマートフォンの画面には麗しい薄紅色のバラが写っている。
ああ、ボス!!と胸の中で喜んだ。

そう、それはザンザスがバレンタインにきらへと送ったものだった。
自ら花屋を探し、日本の花屋と提携している花屋へ頼んだものである。
日本時間のバレンタインに合わせて、花は無事に発送され二人の初めてのバレンタインは完了した。
きらからは日本のバレンタインは送りたい人に送るの、と随分とざっくりした説明を受けヴァリアー邸に赤色とハートが散りばめられたプレゼントが数日遅れてやってきた。
間に合うように早く送ったんだけど、ときらは少し残念がったが海外へと送るものの時間は読みにくい。


「毎日見過ぎじゃね?」

ベルの呆れるようなため息なんかルッスーリアには届いていなかった。

「ボスの愛の努力の証よ!」

彼には自分の願いがかなった証の写真なのである。
というのも、誰もが愛して崇めるボスのザンザスがついに身を固める決意をしたのだ。

時たまに激しくなっていた着信音はもう鳴らないし、彼の行動を可能な限り辿りレストランに乗り込んでくる女もいなくなった。恋に落ちてる女って怖いしボスって本当罪な男、といった複雑だけれども誇らしい気持ちがあった。だがそんな事よりも落ち着いてくれたのは何よりも喜ばしい。

では、当の本人はどう考えていたのだろうか。きらを捕まえようと、追いかけているのに全く捕まらないと少し苛立っていた。
確かに互いに思いやっているのに、と困惑もした。風に吹かれて落ちてくる花びらをつかもうとしている感覚だった。いつもなら簡単に掴めるはずだがと苦難するザンザスを見て笑うのはスクアーロである。

苦難している様子などは他の隊員からはわからなかったが、ずっと側にいたスクアーロだからこそわかっているものだった。
落ち着きのないような、そわそわしている様な微細な変化を感じ取っていたのだ。
あんなにもきらを傷つけ、きらもザンザスと距離を置こうとしていた。クリスマス前の出来事はきっと然るべき試練だったのではないかと、スクアーロは考えていた。
あの事件の後から二人は心を確かに寄せ合うようになったのだ。

きらの瞳は春の夜空に浮かぶ淡い星の様に輝いていた。ザンザスがどれほど、口づけをしたいと思っていたのか彼女はわからない。そう、きらはただただ、自分がちゃんと幸せを感じれているという事で幸せだったのだ。
ザンザスとの心を寄せ合えたが、恋人として胸をときめかせるにはまだ少し時間がかかるのに本人は気付いていないのである。

その様子を春の女神は、棒付きのキャンディーを舐めながら眺めているだろう。
柔らかな四肢を横たえて、微笑まずにじっと二人に眼差しを向けている。
彼女が微笑んで二人が本当に恋人同士として、愛し合うのだろうか。

春の女神はまだ答えてくれないようだ。




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