渡部悟


カランカラン



「いらっしゃいませ。あっ!」

「やっほー、名前ちゃん。」

「渡部さん!」



そこにいたのは渡部悟さん。
外務省の外交官さんでめちゃくちゃ忙しいのに、こうやって暇を見付けては遊びに来て下さる常連さん。



「渡部さんお久しぶりですね。」

「うん。ほんとはもっと名前ちゃんに会いに来たいんだけどねぇ、先週まであっちにいてさ。」

「それはそれは・・・大変でしたね。」

「まぁね。はい、これお土産ね。」

「え!!」


渡部さんはいつも外国で買ってきたお土産を持ってきて下さる。
いつもいつも申し訳ないって思ってるんだけど、前に

『俺がお土産を選ぶのを楽しくてやってるんだから、名前ちゃんには貰って欲しいな。』

なんて整った眉を下げて言われたから断れない。
それに渡部さんのお土産はほんとにいつもセンスが良くて、テンションが上がってしまうのも事実。


「いつもありがとうございます。何だろう・・・開けてみてもいいですか?」

「どうぞどうぞ。」

「では失礼して・・・わあ!!マルセイユ石鹸だ!」

「前に手荒れが気になるって言ってたでしょ?良かったら使ってね。」

「覚えてて下さったんですね・・・。すごく嬉しいです!ありがとうございます!」


マルセイユ石鹸は、天然素材100%の原料だけで作られた
肌に優しい石鹸!
無添加で低刺激なんだよねぇ。
肌の引き締めも効果もあって大好きなんだよ!!

本場フランスのマルセイユ石鹸・・・嬉しい!
でも何よりも、私がポロっと溢した事を覚えてて下さった事が嬉しいなぁ。


「渡部さん座って下さい!コーヒーで良いですか?」

「んー、ごめんね。名前ちゃんの淹れてくれたコーヒー飲みたいのは山々なんだけど、実はまた今から飛ばなきゃいけなくて。」

「え!?」


先週までフランスにいたのに!?
あ、でもよく見ると確かに大荷物だ・・・。
渡部さん、本当に忙しすぎて心配になる・・・。


「今日は名前ちゃんにお土産を渡しに寄っただけだったからね。それに、名前の顔も見たかったし。」

「っ!」


バチン!と効果音が聞こえてきそうなウインクをされて思わず心臓が大きく跳ねる。
だって、だって!お顔が良いうえに女性を喜ばせるのが上手だから!
さすが恋愛偏差値10億・・・!!




「あ!じゃあ、渡部さん!ちょっとだけ待ってて下さい!」

「え、うん。」


急いでいるところ申し訳ないけど、渡部さんに少し待って貰ってケーキショーケースから目当ての物を取り出して紙袋に詰める。


「あの、これよろしければ持っていって下さい。」

「これ・・・、」

「バターサンドです。ちょうど今日のメニューにあったんですけど、渡部さんお好きでしたよね。」


今日の焼き菓子として用意していたバターサンド。
前に渡部さんが嬉しそうに買って行かれたのを思い出してショーケースに入っていたのを邪魔にならない程度に渡す。


「よろしければ空港とか飛行機の中とか、小腹が空いたときに食べて下さい。いつも素敵なお土産を頂いて、お礼といってはお粗末で申し訳ないんですけど・・・、」

「ううん。嬉しいよ。ありがとう。」


渡部さんは笑顔で紙袋を受け取ってくれる。


「あ!でも渡部さんが利用されるラウンジとかで出されるお菓子とか食べ物に比べたら貧相で恥ずかしいですよね・・・!!あの、なんかかえってすみません!!お邪魔でしたら置いていって下さっても、」

「名前ちゃん。」

「え、はい。」

「俺にとっては名前ちゃんが心を込めて作ったお菓子が何よりも魅力的だよ。ありがたく貰うよ。ありがとう。」

「っ、はい・・・。」


甘い甘い、フランスのお菓子のような声色と表情で言われるから、私も返事に詰まってしまう。


「あ、そうだ。名前ちゃんにお願いがあるんだ。」

「何ですか?」

「俺がまた帰国したら、お店の外で会わない?」

「え、」


紙袋ごと一緒に手を取られる。
渡部さんの手の熱が伝わって、私の手も熱くなってバターが溶けちゃうかもしれない。


「お店で輝いて仕事する名前ちゃんも魅力的だけど、俺の前だけで俺の為に笑ってくれる名前ちゃんも見たいなぁって。」

「あの、えっと、」


それって、どういう意味で言ってるの・・・


「俺のあげたマルセイユ石鹸ですべすべになったこの手を最初に握るのは俺が良いな。」

「っ、わ、渡部さ、」

「もちろん今のままの名前ちゃんも好きだけどね。」

「っ、」


し、刺激が過ぎる・・・!
この外交官様のフランス式の口説き方は私には刺激が強すぎるよ・・・!!

というか、あの、本気なんですか・・・?


「ふはっ、名前ちゃん真っ赤っかで可愛い。」

「も、もう!渡部さん!」

「名残惜しいけど、もう行かなくちゃ。デートの返事は帰国後にお預けだね。」


手が離れて、渡部さんの手の熱だけが残る。




「じゃあ、Je rors,princese.」




そう言い残して、渡部さんは愛の国に飛んでいった。



「ま、またのお越しを、お待ちしてます・・・。」














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