不動産王の策略
「んんー。なかなか良い部屋無いなあ。」

「名前ちゃん、引っ越すの?」


昼休み。
オフィスで自分のスマホで賃貸検索サイトで色々と物件を見てみるけど、なかなか自分の条件に合った部屋が見付からない。

唸ってると、隣の席の夏目くんがこちらを覗き込んでくる。


「うん、そうなの。通勤には今の部屋も悪くないんだけど、両隣が煩くて・・・。そろそろ更新だし、これを機に引っ越そうかなーって。」

「へぇ。」

「夏目くん、オススメの部屋とかある?」

「俺が勧めるような部屋の家賃、名前ちゃん払える?」

「・・・このやろう。」


御曹司が・・・!!
ホテルのスイートに連泊してる男が勧める部屋なんか、住めるわけない!!


「名前ちゃん、部屋、探してるんだよね・・・?」

「玲ちゃん。うん、そうなんだよー。でもなかなか見付からなくて・・・。」

「あ、あのね!オススメの不動産屋さんがいて、そこなら名前ちゃんの希望の物件見付けてくれると思うんだ!」

「本当!?」

「う、うん!きっと気に入ると思うよ。」


女神かよー!
玲ちゃん顔広いし、彼女がそんなに推す不動産屋さんならなんか安心!


「ねね、そこ紹介してもらえないかな?」

「もちろん!」


私が自分で不動産屋さんに連絡しようと思ったけど、玲ちゃんがアポを取ってくれるって言うからお言葉に甘えて、当日に向かうお店の地図だけもらった。
いやぁ、至れり尽くせりだなあ。
玲ちゃんに感謝感謝。


「・・・玲ちゃん、なんか企んでる?」

「な、何が!?」

「ふぅん。」


浮かれてた私は、ふたりがこんな会話をしてた何て少しも気付いてなかった。




◆◆◆◆



仕事が休みの今日。
玲ちゃんが書いてくれた地図を頼りに道を進む。


んん・・・
地図の通りに進んでるはずなんだけど・・・
なんか段々と街中から遠ざかってない?
むしろなんか、住宅街というか・・・
というか、高級住宅街というか・・・。



「あ、ここ・・・って!!!???」



な、なんか、お屋敷・・・!
すごいお屋敷だ・・・!!


「玲ちゃん、え、地図間違ってない!?」


どう転んでも不動産屋さんじゃないよ!!
どっかの大金持ちのお屋敷だよ!!


「え、どうしよ・・・玲ちゃんに電話、」



ギィイイ



「!?」


とりあえず玲ちゃんに連絡をしようとスマホを取り出した時に、目の前のバカデカい門が開いた。

え・・・なに・・・。

唖然としてると、中から人が出てきた。


「ようこそ、お嬢さん。」

「え!?ひ、桧山さん!?」


そこには桧山財閥トップの桧山貴臣さんが・・・。

玲ちゃん!!!
不動産屋さんて!!!

ちがうよ!!
桧山さんは不動産屋さんじゃなくて不動産王だよ!!!

玲ちゃんは私が山とかビル丸ごととか買うとでも思ってるの!?
買えないよ!!賃貸だよ!!!



「あ、あの・・・すみません、何か手違いで、」

「いや、話は聞いている。とりあえず中に入ろう。」

「はあ・・・。」





広い広いお庭を抜けて、長い長い廊下を進んで、応接室のような広いお部屋に通される。

メイドさんがお茶とお菓子を運んできてくれて、私も勧められるがままに手を伸ばす。


「い、いただきます・・・。」

「あぁ。遠慮なく食べてくれ。」

「・・・、美味しい・・・!」

「ふっ、お嬢さんの口に合って何よりだ。」

「っ!」


私はマトリには所属してるけど、スタンドじゃないからそんなに桧山さんとお会いした事無いんだよお!!
だからそんな風に麗しいお顔で微笑まれるのに慣れてないんですよお!!

早く玲ちゃんの手違いで来てしまった事を伝えて帰ろう・・・!
心臓がもたない・・・!!


「あの、桧山さん・・・。玲ちゃんに何て聞いてたのか分からないんですが、あの、私、ひとりで住む賃貸物件を探していまして・・・桧山さんが扱うような、その、凄い物件なんて分不相応でして・・・。」

「いや、マトリのお嬢さんからは話はちゃんと聞いている。なんでも隣人の騒音で部屋を変えたいらしいな。」

「は、はい!でも、その予算とか・・・。」

「安心してくれ。お嬢さんの負担にならない物件を紹介しようと思っている。」


玲ちゃん・・・!
疑ってごめんね!!

でも不動産王の桧山さん直々に、ワンルームの賃貸を紹介してくれるなんて・・・。
なんか申し訳ないなあ・・・。
でもあれだね、玲ちゃん様々だね。
桧山さんはなんか変人が多いスタンドメンバーの中でもまだまともっぽくて好感が持てるからなあ。


私が脳内で失礼な事を考えてる間に、桧山さんは執事っぽい人から何枚かの書類を受け取っていた。

あ、物件の間取り図とかかな?



「まず、お嬢さんは静かな部屋を所望してる、で間違い無いな?」

「はい。静かな事に越した事はないです。」

「他には?」

「そうですね、やっぱり職場までのアクセスが良いのと、一応女なので入り口のセキュリティ、あとはバストイレは別が良いです。」

「ふむ。」


あ、やっぱり我が儘かな・・・。
都内だとこの条件だと家賃はね上がるよねぇ・・・。


「問題ない。全てクリアしている。」

「え!本当ですか!」


さすが不動産王!
持ってる手札の数が違うね!

「繁華街などから距離もあるので騒音の心配はない。」

「ほうほう!」

「他にも四季の花が楽しめる広い庭が付いている。」

「え!すごい・・・。」

「セキュリティに関しては、防犯カメラは勿論、警備会社から数名常駐させてる。」

「・・・え?」

「風呂とトイレはそれぞれ5ヶ所以上あるから心配いらない。」

「・・・ん?」

「お嬢さんの職場へのアクセスだが・・・、運転手が送迎を行う。」

「うんて・・・んしゅ・・・?」

「食事もシェフがいるから心配いらない。」

「は・・・?」

「肝心の家賃だが、光熱費水道料金など公共の使用料込みで無料だ。」

「ちょ、ちょっと!!」


お、おかしい!!!
おかしいって!!!
途中からおかしくなってますよ!!

そんな物件あるわけないし、あったとしてもそれは天上人のお住まいだって!


「お嬢さん。」

「は、はい・・・。」

「お嬢さんにはこの家で俺と住むことを勧める。」

「はい!?」

「これが契約書だ。」


!!??
な、何言ってるんですか!!
というか、間取り図だと思ったら契約書!?



「あの、待って!待って下さい!!」

「何だ。問題でもあるのか?」


問題だらけですって!


「まず、何で私がここに住まなきゃいけないんですか!?」

「俺がお嬢さんと一緒に居たいからだ。」

「え、は、ええ!?」


な、なんで!?
私、何かした!?


「・・・以前からお嬢さん・・・、名前の事は気になっていたんだ。」

「っ、」

「現場で必死に他のマトリに付いていこうと歯を食いしばって前を向く名前に惹かれた。気付くと、いつもお前の姿を探してる俺がいた。」

「・・・。」

「もっと名前の事を知りたい。俺の事も知って欲しい。俺と、ここで一緒に住んではくれないか?」

「っ・・・。」


こんな王子様みたいな人に、そんな風に想ってもらって・・・嫌な気はしない。
むしろ、絆されそう・・・。

でも、でも!
さすがに急には・・・無理だよ!


「あ、あの!お気持ちは嬉しいんですけど、でも・・・すみません、一緒には住めません・・・。」

「そうか・・・。」


桧山さんは悲しそうに顔を伏せる。
心が少し痛むな、と思ったら次の瞬間には桧山さんに腰を抱かれて引き寄せられる。


「きゃっ、」

「お嬢さん。」


顔が近付き、桧山さんが不敵に笑った。





「俺は存外諦めが悪い男でな。覚悟すると良い。」





「っ!」

「それに、一緒には住めないが俺の事も気持ちは否定されていないようだしな。」

「あっ、あの、えと、」

「顔が赤いな。どうやら期待して良いようだ。」

「っ〜〜〜!」



どうやらまんまと不動産王の策略にハマりそうな予感・・・。





その後、お部屋は別にワンルームの賃貸を紹介してもらったけど、そこは取り壊しが決まってる物件で。
そんな事は知らない私は退去勧告に困り果てて、結局桧山さんのお屋敷にお世話になることをまだ知らないのでした・・・。






おまけ


「名前ちゃん、大丈夫かな・・・。」

「玲ちゃんやっぱり何か企んでたんでしょ。」

「だ、だって!桧山さん、こう、逆らえないオーラで脅し・・・頼んでくるから・・・。」

「名前ちゃん、今頃食われてるんじゃない?」

「!?名前ちゃんー!ごめんねー!!」








続編書きたいなぁ。




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