夢主≠玲ちゃん
「ほら!名前!御覧になって!あの御方が慶太さんよ!」
「っ!」
その瞬間、私は恋に落ちてしまったのです・・・。
「尚純さーん!」
「名前さん・・・。」
「こんばんは、尚純さん!今お帰りですか?」
「こんばんは。そうだよ。名前さんは・・・、俺を待ってたの?」
「いえ!!まったくの偶然です!!!」
あの日、友達の小町に連れられて建物の影から槙さんを紹介?された。
小町は横で、慶太さんはお優しくてとか大変可愛らしいのに男らしくて素敵とかひとりでベラベラ喋ってたけど、私には申し訳ないけど槙さんは目に入らなかった。
そう、私には横にいた尚純さんしか見えていなかったの。
甘いマスクにふわふわの茶髪、スラリとしたスマートな身体にスーツがよくお似合いで、黄色いネクタイが尚純さんの可愛らしさも引き出してて・・・
とりあえず一目惚れしちゃったんです!!
「尚純さーーん!!」
その日から私の猛アタックは始まりました!
私は小町と違って陰から見守るなんてしない!
ガンガン本人に突撃するのみ!
『さすが御嬢様のご友人。ストーカー行為はお手の物ですね。』
なんて田中森には言われたけどね!
だまらっしゃい!!
好きなら好きって伝えるのが愛でしょう!?
「尚純さん、お食事は済みましたか?よろしければこれからご一緒にいかがです?」
「あー、ごめんね。このあと哲くんのとこに呼ばれてて。」
「そうですか・・・。それは残念です。」
「ごめんね。もう暗いから、気を付けて帰ってね。」
「っ、はい!」
「・・・俺を待って、こんな時間まで外にいちゃダメだからね?」
「はい!・・・あっ、」
やっぱり、と尚純さんは苦笑してそのままタクシーで行ってしまった。
うううう・・・張り込んでたのバレてた・・・
「今日もフラれてしまいましたわね、名前。」
「小町!ふ、フラれてないもん!」
どこから見ていたのか、小町がフラリと現れた。
「でも名前が尚純さんを好きになるなんて思いませんでしたわ。たしかに慶太さんのお兄様だけあって、素敵な殿方ですけど。」
「慶太さんはともかく、尚純さんはほんとに素敵だよ!」
「慶太さんはともかくとは何て言い草ですの!!!」
プンスカ怒る小町はさておき、さっきのフラれた発言はけっこう刺さるなあ・・・
ガンガン本人にアタックとは言ったものの、尚純さんとお食事はおろか、お茶さえ一緒にできていない・・・。
「っ〜〜!名前!そんなお顔をしてはいけませんわ!!名前の気持ちはきっと尚純さんに届きますわ!!」
「わーん!小町ありがとー!好きー!!」
「わ、わたしくも、き、嫌いじゃありませんわ!!」
「口を挟むようで恐縮ですが、名前様も名字財閥のご令嬢であらせられるのですから、お父様のお力をお借りすれば尚純様とも縁談は結べるのではありませんか?」
「おだまりなさい!田中森!!そういう事ではないのですよ!」
「・・・。」
たしかに田中森の言ってることは正しいけど、それじゃ私は尚純さんに心を開いてもらえない・・・
「ふたりとも、ありがとね。私、がんばるよ!」
◆◆◆◆
「尚純さーーん!こんにちは!」
「名前さん・・・」
「尚純さん!今日は「名前さん、もういいよ。」
「え・・・?」
「名前さん、もう俺にそんなに構わなくていいんだよ。」
「え、どういう事ですか・・・?」
「俺の、うちの会社目当てで、声かけてきたんだよね・・・?」
「え、ちが、え、なんでそんなことっ」
「昨日、名字会長からうちの親父に申し入れがあったんだ。見合いのね。」
「!?」
まって、そんなの知らない・・・!!
だってお父さんにもお母さんにも話してないもん!!
「待ってください!私、そんな話知らないです!!私は、私は自分の意思で尚純さんのところに、」
「無駄だよ。」
「え、」
尚純さんは、ふっと笑って
「俺は、親から期待されてない。会社を継ぐのだって、慶に決まってるし。だから申し訳ないけど、俺の名前目当てだったら他を当たった方がいいよ。」
なんで、そんな、悲しそうな顔、するの・・・
「ごめんね、こんなに時間取らせて。だからこんな事はもう「違うんです!!!」
「私は、私は、慶太さんを見つめる尚純さんの瞳とか!困ってる子供を助けてる優しいところとか!私が尚純さんの迷惑を考えずに突然訪ねても嫌な顔しないで気を付けて帰ってねって言ってくれる思いやりのあるところとか!尚純さんのお家じゃなくて、尚純さんだから・・・」
「・・・そう言うように、言われた・・・?」
「っ、ちがう、ちがう、どうして、」
っ、どうしたら信じてくれるの・・・
泣いて同情を引きたいんじゃないのに・・・
「私が、名字の娘だから信じて貰えないんですよね・・・。」
「名前さん・・・?」
「私が名字じゃなくなれば、尚純さんは私を、ただの名前として見てくれるんですよね・・・。」
「え、」
「分かりました。私、家を出ます・・・。」
「え、ちょっと、」
「だってそうしないと!尚純さんは私の気持ちを信じてくれない!!!家に縛られてるのは、私もです!!!」
「名前さん・・・。」
「好きなんです、本当に・・・。一目惚れでしたけど、何回もお話しさせて頂くうちに、尚純さんが、とても優しくて、それで、わたし、っ、」
「ごめんね、」
「っ、」
どうしても、ダメなんだ・・・
「うっ、ふうっ、」
「俺じゃダメだって、分かってたんだ。」
「え、」
どういう、こと・・・?
「いつかパーティーで楽しそうに英のお嬢様とお話されてた女の子が、突然俺の前に現れるようになって、何度も何度もめげずに誘ってくれて、」
「・・・。」
「きっと、英のお嬢様が慶太の事を好きだから仕方ないから俺の方に取り入るようの親に言われたのかなって初めは思ってて、」
「・・・。」
「でも、政略だって思ってても、名前さんが来てくれるのが楽しみになってた。疲れてても、親とか社員からの視線で会社にいるのが嫌になってても、名前さんを見ると元気になれた。」
「っ、尚純、さん・・・」
「せめて、がっかりさせないように、俺から身をひいて、もっと良い縁談を組ませてあげる事が、俺にできる事だと思ってたけど・・・、」
尚純さんは、泣いたような笑顔で、それでもさっきのような悲しい目じゃなくて、
私の手を、取ってくれた。
「信じてもいい?」
「信じて、欲しい・・・っ、」
「好きになっても、良いかな?」
「っ、わたしは!尚純さんのこと、とっくに大好きなんです・・・!!」
「うん、ありがとう。」
そういって、優しく抱き締めてくれた。
「ふうっ、うっ、ひっ、」
「ごめんね、泣かないで。」
「だって、だってえー!」
ちゅっ
「可愛くて、止まらなくなるから。」
「っ〜〜〜!」
あの日、あの時、尚純さんに出会えて、諦めてなくて、よかった・・・
「好きです、尚純さん。」
「うん、俺も。」
「名前〜〜っ、よかったですわあ!」
「お嬢様、ハンカチです。」
「静かにおし!田中森!!」