笑顔の奥の
夢主≠玲ちゃん
(女優夢主)




「都築京介さん入られまーす!」
「名字名前さん入られまーす!」



年末のSPドラマの収録。
撮影も佳境で、そろそろクランクアップ間近。
ドラマの主演は都築京介だけど、有り難いことに私もヒロインの役を貰えたから彼とは撮影期間中ほとんどの時間を一緒に過ごしている。


「名前さん、今日もよろしくね。」

「こちらこそ。」


撮影は順調。
これといったトラブルもないし、監督をはじめスタッフさんたちもいい人たちばかりで現場にいるのもすごく楽しい。

問題というか、気になる事があるとすれば


「もうそろそろクランクアップだねー。名前さんと一緒に現場入れるのも終っちゃう。寂しいなあ。」

「あはは、都築さんってば。」



都築京介。
けして嫌いな訳じゃない。人当たりだっていいし、皆に好かれてる。
私だって良くしてもらってるし、共演してて掛け合いだってやり易くて、彼から学ぶことも沢山ある。
でも、なんか彼を見てると


「なんかさ、都築京介って違和感ない?」

「えー?名前何言ってるの?京介くん、すごいいい子じゃない。私、好きよ。」

「いや、好きとか嫌いとかじゃなくてさ・・・。」


控え室でスケジュール確認してたマネージャーに溢しても、同意はされない。
やっぱり私の考えすぎなのかな・・・?

まあ、撮影が終われば彼ともそんな関わることも無くなるし。
事務所だって違うしね。


そう思ってた矢先だった。



「じゃあすみません!!!こちらでお待ち下さい!」

「はい、皆さんもお気をつけて!」
「・・・。」


なんてこった。
撮影最終日はロケで、ラストシーンのために演者は私と都築京介だけで某所の海まで来てたのだが、突然の悪天候で撮影は中断。
セットの撤収や今後の天気の確認などで、控え室の代わりのプレハブ小屋に都築京介とふたりきりになってしまった。



「(別に嫌じゃないんだけど、なんか落ち着かないというか・・・)」

「名前さん。」

「あ、はい。何ですか?」

「寒くないですか?何か温かい飲み物とかいれますよ?」

「大丈夫ですよ。都築さんこそ大丈夫ですか?少し濡れちゃいましたね・・・」

「あはは、俺は大丈夫。男ですからね!」

「頼もしいですね。でもまだ撮影もあるし、都築さんはお忙しいので風邪に気を付けてくださいね。」

「名前さんは優しいなあ。」


都築京介は、いつもの人好きのする笑顔で語りかける。
あ、分かった。


「笑ってない・・・」

「え?」


やば、声に出た。


「名前さん?」

「っ、」


分かっちゃった。

都築京介は、笑ってるようで笑ってない。

もちろん彼は人気俳優だし、皆から好かれてるし、そんなバレバレな作り笑いじゃない。
でも、なんかその笑顔が私には作られたものに見えちゃって・・・。


「つらい、の・・・?」

「え・・・?」

「都築さん、いつも笑ってるようで笑ってない・・・。仕事、楽しくないんですか・・・?」

「・・・。」

「ごめんなさい、いきなりこんな事。」


うん、関係ない私がこんな事言ってもダメだよね。
そもそも私の考えすぎだよね。


「ごめんなさい、何でも無い「あーあ。名前さんには分かっちゃったかあ。」

「え・・・?」


私の言葉を遮ったのは都築京介。
顔は天を見上げてて、私には、見えない。


「都築、さん・・・?」

「うん、ごめんね。別に仕事が楽しくないわけじゃないんだ。名前さんと一緒に仕事できたのだってすごい楽しいんだよ。」

「・・・。」

「でも今まで色々な役を演じて、皆に望まれた都築京介を作ってきて、そうして、本当の自分が分からなくなってきて。本当の俺は、どんな顔をしてたか上手く思い出せないんだ。」


ゆっくり、都築京介の顔が、私のほうを向く。


「でも、名前さんは気付いてくれた。本当の俺の欠片を、見付けてくれた。」

「っ!」


それは、見たことがない、都築京介の、顔・・・。
ゾッとするほどの、美しい、笑み。


「ははっ、兄貴以外で俺を見てくれた人は名前さんが初めてだよ。」

「都築、さん・・・。」

「ねえ、京介って呼んでよ。俺、名前さんともっと仲良くなりたいな。」

「きょ・・・すけ・・・さん・・・。」

「うん。撮影が終わっても、もっと俺を見てね、名前。」




私が見付けてしまったのは、ただ可愛いだけの男の人じゃない。
感じたのは、恐怖か、これからへのトキメキか・・・。
今の私には、まだ分からない。


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