不動産王の誤算
不動産王の策略 不動産王の知略 不動産王の計略の続編





「お前たちに協力して欲しい事がある。」

「「・・・。」」


いつものバー。
その個室に羽鳥と泉を呼び出した。
ふたりには以前にも名前の事で手助けをしてもらっている。

今回も、ふたりの協力が必要だ。


「そろそろ名前を名実ともに俺の手に入れたいと思っている。」

「へぇ、良いじゃん。」

「プロポーズですね!素敵です!」


プロポーズ、か・・・。


「まぁ趣旨はそうだな。しかし少々勝手が変わってくる。」

「・・・嫌な予感するんだけど。」

「・・・私もです。」


名前と暮らし始めて半年。
初めて名前を抱いた日から、俺たちは同じ部屋で休み、仲も深めてきた。
恐らく普通にプロポーズしても、名前は了承してくれるだろう。

だが・・・、


「それでは足りないんだ。」

「・・・足りないって?」


俺が欲しいのは・・・





「名前が一生、俺から離れない状況をつくりたいんだ。」





「うわぁ・・・。」

「ひ、桧山さん・・・?」

「俺はもう、名前を手離す気はない。」


そんな俺に、羽鳥がおずおずと手を上げて質問をしてくる。
何をそんなに顔を歪めてる?
何も怯えることは無いだろう?


「・・・ねぇ、一応聞くけど・・・監禁とかじゃないよね?」

「!?そ、それはさすがに私も協力しかねます!!」


何を言い出すかと思えば・・・。


「そんな事はしない。一生離れられないといっても、名前が笑えない日々など意味がないからな。」

「なら、良いんだけどさ。」

「(良いのか?)」


何も名前を屋敷に縛り付けたい訳ではない。
本音を言えば、マトリの仕事も辞めて、毎日俺の帰りを待っていてくれれば嬉しいが・・・、名前はマトリの仕事に誇りを持っているからな。
そこは尊重してやりたい。

・・・今は、な。

あくまで俺と別れないように、ずっと俺のモノでいてくれるようにしたいんだ。


「で、俺と玲ちゃんにどうして欲しいの?」

「前回同様、名前の優しさに付け入ろうと思う。」

「(言い方・・・)」


名前は俺の困った顔に弱い。
俺の容姿もあるが・・・、名前の優しい性格がそうさせている。


「今度うちでガーデンパーティーを開く。そこでわざと暴漢を雇い、俺を襲わせる。」

「・・・うん。」

「(羽鳥さんが反応に困ってる・・・)」

「羽鳥とお嬢さんには、槙と神楽を俺から遠ざける役目を頼みたい。俺と名前がふたりになった瞬間に襲わせる。」

「・・・それで?」

「名前なら咄嗟に俺を庇うだろう。そこを逆に俺が名前を守り、傷を負う。」

「は?」
「なっ、」

「もちろん致命傷にならないように示し合わせる。そこで名前を庇って傷を負った俺に求婚されれば、名前も断れない。」

「うーん。」

「そ、そこまですんですか!?」

「無論だ。そしてその罪の意識から、名前も自然と俺から離れようなどとは思うまい。」


初めは名前に傷を付け、責任を取る形にしようと思ったが・・・何であれ、名前に傷を付ける事は耐えられない。
ならば俺を負えば良いだけの話だ。


「ねぇ、俺たちいる意味ある?ふたりきりの時じゃ駄目なの?」

「(確かに・・・)」

「ふむ。それも考えたが、やはりギャラリーがいた方が場が盛り上がるだろう。」

「・・・そっか。」
「・・・。」


名前は雰囲気に流されやすいところがあるからな。
まぁ、そこも可愛いのだがな。


「でもそんな面倒臭いことなしなくても、子供作って既成事実使った方確実じゃない?」

「は、羽鳥さん!!」

「いや、それは駄目だ。」


そんな都合で、簡単に作っては産まれてくる子供に申し訳ない。
望まれて祝福され、幸せの中で産まれてきて欲しい。
それに出産となると、名前に負担がかかる。
しかし第一には・・・


「子供に名前を取られたくない。今はまだ、ふたりで過ごしたいからな。」

「ふぅん・・・。」

「(なんかもう、会話のなかに少しも安心できるとこがない)」

「まぁ、こんなところだ。協力してくれるな?」

「桧山の中では決定なんでしょ?こんな事、槙も神楽も協力しないだろうし。まぁ、良いよ。」

「!!わ、私は・・・、」


正義感の強い泉が渋るのは予想していた。
だが、俺も退けない。


「名前ちゃんに危険が及ぶかもしれないこんな計画、賛成しかねます!」

「誓って名前を危険に晒さない。」

「でも、こんなっ・・・名前ちゃんの気持ちを無視した・・・、」

「玲ちゃん・・・。」

「それに!名前ちゃんはこんな事しなくても、桧山さんの事、ちゃんと「泉。」

「っ・・・。」

「俺の依頼を、聞けないという事か?」


お前なら分かるだろう。
俺の言っている事の意味を。


「そ、そんな・・・、」

「玲ちゃん。こうなったら桧山は譲らないよ。大丈夫。悪いことにはならないよ。」

「・・・はい。」


納得はいっていないようだが、今後もマトリの捜査やスタンド案件に関わっていく以上、泉も俺に強くは出られない。
全て分かっている。

さぁ、名前。
待っていてくれ。






◆◆◆◆




「わあ!すごい!私、ガーデンパーティーって初めてだ。ね、玲ちゃん!」

「う、うん。今日はお招きありがとう。」

「いやいや、私じゃなくて貴臣さんだよ!」

「はは、そうだね・・・。」


計画通りRevelと名前と泉だけのささやかななガーデンパーティー。
名前も楽しんでいるようだ。


「ねぇ、名前ちゃん、」

「ん?」

「・・・ううん。ごめんね、何でもないや。」


賢明な判断だ、泉。
何も心配することはない。
これは、全員が幸せになる計画だからな。

さて、そろそろ雇った男が来る頃だ。

羽鳥と泉にアイコンタクトをすれば、ふたりは自然な流れで槙と神楽を俺達から遠ざける。
俺と名前は庭の入り口に近いテーブルの側でふたりきりになる。


「貴臣さん、素敵なパーティーをありがとうございます!」

「いや。楽しんでいるか?」

「もちろんです!」


笑顔で俺を見上げる名前は、堪らなく可愛い。
あぁ、もうすぐだ。
もうすぐ、名前の全てが俺のモノになる。
そう思うと、自然と俺の顔にも笑みが浮かんでしまう。

さぁ、始まるぞ。





「オラァ!!桧山を出せ!!!」




「!!??な、何!?」

「名前!俺から離れろ!」

「テメェのせいで俺の会社は・・・!!」


計画通りだ。
雇った男は小ぶりのナイフを持って現れた。

そうだ、そのまま来い。


「俺が桧山だ。」

「テメェか!覚悟しろ!!」

「貴臣さん!!」


ふっ。
やはり名前は俺の前に飛び出してきた。
己を顧みず、人を守ろうとするのはお前の美点だ。
だが、今はそれを利用させてもらおう。


「邪魔だ女ぁ!!」

「名前!!」


素早く名前の前に立ちはだかる。
ここで、俺を刺せ。

襲ってくるであろう痛みに備え、身体に力を込める。
あぁ、名前が手に入るなら、少しの傷など・・・。




そう思っていた時だ。



グイッ



「!?」

「貴臣さん!!ダメ!!!」


突然後ろから手を引かれ、名前が再び前に飛び出す。
待て、そうじゃない。
そうじゃないんだ!!


「邪魔するならテメェも!」

「!ま、待て!違う!!!名前!!!!」

「っ、」


ザッ!


「あっ、つぅ・・・、」

「名前!!」


目の前で崩れ落ちる名前。
待て、何が起きた・・・。
こんなはずでは無かった・・・。
違う・・・。
計画では、俺が刺されるはずで、なのに・・・。
名前が、倒れてる・・・。


「桧山!」

「、は・・・とり・・・、」

「落ち着きなよ。ほら、名前ちゃんは無事だよ。」

「名前・・・!」


羽鳥に促されて見てみると、泉に支えられて身を起こしている名前。
神楽がハンカチで名前の傷を押さえている。
槙は・・・あの男を警備に受け渡してる。

こんな、こんなはずでは・・・。


「貴臣さん・・・。」

「名前!」


名前に寄り添うように地面に膝をつく。
ふざけるな。
こんな時に限って、頭がうまく回らない。


「貴臣さんに怪我が無くて、良かったです・・・。」

「!!何を言っている!!お前が傷を負ったら意味が無いだろう!!」

「私が怪我をしたら、悲しい、ですか・・・?」

「当たり前だ!!!」


お前を守りたくて、お前が大事だから・・・
だから!!
悔しくて不甲斐なくて、歯を食いしばり、俯く。


「私もです!!」

「・・・は?」


先ほどまでの苦しげな声色から一転、キッパリと言い放つ名前に驚き顔を上げると・・・
真っ直ぐに俺を見据える名前。
その顔に、痛みや苦しさは無く・・・。

どういう事だ・・・。


「名前、怪我は・・・、」

「してないですよ。ほら。」

「・・・。」


神楽に押し付けられていたハンカチを外すと、確かに綺麗なまま。
傷も血も見られない。
それに、羽鳥たちも驚いている様子はない。


「私、知ってました。」

「・・・何を、」

「全部、知ってました。というか、聞きました。今日の事も、今までの事も。」

「っ、」


羽鳥か・・・、いや、泉もか・・・。
何故だ、何故話した・・・!


「あ、玲ちゃんたちを責めないで下さいね。ふたりとも、貴臣さんの事を思って話してくれたんです。」

「・・・俺の、事・・・。」

「全部分かった上で、私から皆さんに協力をお願いしました。」

「・・・。」

「正直、話を聞いて・・・ふざけるな!!!って思いました。」

「っ、名前・・・。」


嫌われた、か・・・。
幻滅、か・・・?

全てが誤算で、頭が真っ白になる。

だがそんな俺の手を、名前は優しく握って話を続ける。


「ねぇ、貴臣さん。貴臣さんが私の事を心配してくれたみたいに、私だって貴臣さんが傷付いたら嫌です。すごく、悲しくなります。」

「・・・。」

「罪悪感とか、責任とか・・・、そんなので縛らないと安心できないんですか・・・?」

「っ、」


俺は・・・、俺は・・・。


「私、ちゃんと貴臣さんが好きです。もう、貴臣さんと一緒じゃないと安心して眠れません。朝、貴臣さんの顔を見ないと1日頑張れる気がしません。疲れたとき、貴臣さんが笑ってくれると心が軽くなります。もっとずっと、一緒にいたいって思ってるんです。」


俺が愛した、真っ直ぐな名前の瞳。
この意思の強い瞳に俺を映して欲しくて、俺は策を立てたんだ。


「始まりは貴臣さんの計画通りだったのかもしれませんけど・・・、でもこの気持ちは、私の意思です。貴臣さん、私・・・、」


自分の事ばかりで、俺は名前を信じてなかった。
一番、信じなくてはいけない相手なのに。





「私、貴臣さんを愛してます。」





「っ、名前・・・、」

「私の方が、もう貴臣さんから離れられなくなってるんです。責任、取ってください・・・。」

「っ、」



ギュッ


羽鳥たちがいるのも構わない。
堪らず名前を、強く抱き締める。


「名前、すまない・・・。」

「謝るだけ、ですか?」

「・・・愛してる。」

「ふふっ。私もです。」

「俺は、名前を手離せない。」

「私も、同じです。」







「俺と、結婚してくれ。」



「はい、喜んで・・・。」



ちゅっ

これは、誓いのキス。
もう名前の気持ちを疑わない。

そして、



「おめでとう桧山。」
「おい羽鳥、邪魔するなよ。」
「はぁ。空気も読めないわけ?」
「ううっ、名前ちゃん、おめでとうっ・・・、」


「っ!み、皆さん・・・!」

「ははっ、見られてしまったな。」





俺の一生をかけて、お前を愛す。



「幸せにする。」

「・・・はい!」










不動産王シリーズ、ひとまず完!



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