助手は隠してる


「あ!早乙女さん!おはようございます!」

「おはようございます、名字さん。」



彼女はうちの大学の購買部店員の名字名前。
1年前くらいから働いていて、可愛らしい笑顔とその人柄で瞬く間に大学の人気者となった。

そして俺は、


「これをお願いします。」

「いつもありがとうございます!」


彼女に会うために、毎日購買に通っている。
お陰で名前を覚えてもらったし、こうして雑談をする仲にまで発展した。


「はい!あ、今日はコーヒーの他にお菓子もですね。」

「ええ。瀬尾教授の論文の手伝いで学生たちも頑張ってくれてるので、差し入れです。」

「ふふっ。優しい先生がいて、学生さんたちも幸せですね。」

「いえいえ、僕なんか。頑張ってる学生たちを応援したいだけです。」


この!笑顔を見れるなら!!
毎日の出費なんて微々たるもんだ!!


「お会計は1300円です。」

「2000円で良いですか。」

「はい!700円のお返しです。」


たとえ彼女にとって、朝の些細な出来事だとしても、こうして俺の事を認知してもらえるだけで幸せだ。





「えーーー!絶対嘘!!認知してもらえるだけで幸せって、郁人さんそれ絶対嘘ですよねー!」

「うるさい!!!」


買ったコーヒーと菓子を手に研究室に向かえば可愛たちが目敏くそれを見付け、騒ぎ立てる。


「毎日名前さんのとこに甲斐甲斐しく通って、それだけで満足してるわけないですよ!ね、潔くん!」

「えっ、あの、俺は・・・その、え、」

「黙れ年中パーティーピーポーな学生ども!大人の事情に口を挟むな!」

「むうー!そんな事言ってー!知ってますよ!名前さんに手に触れたくてわざと毎回お釣りが出るようにお金出してる事!!」

「なっ!!ど、どこでそれをっ、」


だ、誰にも言ってないぞ・・・!


「あ、本当だったんだ!!郁人さん最近お財布パンパンだから言ってみたら・・・。全然大人じゃないじゃないですか!」

「くそ!!このピンクの悪魔め!!」

「あー!そんな事言って良いんですか?折角名前さんの情報を教えてあげようと思ったのにー。」

「な、なんだと!!」


可愛に頼るのは癪だが、こいつの情報網は確かだからな・・・!!


「何だ、言ってみろ。」

「郁人さん、それ頼む人の態度じゃないですよ。」

「ごちゃごちゃうるせぇ!早く教えろ!」

「もー、必死だなあ。」


こちとら長い片思いでいい加減この関係に飽き飽きしてんだ!
認知だけで幸せ?
嘘に決まってるだろ!!


「しょうがない、教えてあげますよ。」


だからさっさとしろって言ってるだろスカタン!!


「名前さん、優しい男の人が好きなんですって!それで、今は彼氏も居なくてフリーらしいですよ!」

「・・・。」



そんなの、知ってる。
知ってるから、俺は彼女の前で「優秀で優しい早乙女郁人」を演じ続けなきゃいけない。


あれは彼女が働き始めて1ヶ月くらい。
彼女と頭の悪そうな女子学生が話してるのを偶然聞いてしまった。

『えー!名前ちゃんってカレシいないのー!?』
『うん。今はご縁が無くて寂しい独り身だよ。』
『名前ちゃんめちゃくちゃ可愛いのにー!』
『そうかな?へへ、ありがとう。』
『じゃあさ!じゃあさ!!名前ちゃんはどんな男が好みなの??』

『・・・優しい人、かな。』

『えー!ふつーー!』
『いいの!!ほら、もう次の講義の時間だよ!!いってらっしゃい!』
『やば!じゃね、名前ちゃん!!』


優しい、人・・・。
お世辞にも俺は優しい男とはかけ離れてると自覚してる。
悪いこととは微塵も思ってないが、出世の為にあれやこれやと画策してるし、研究室の学生たちにだって強い言葉を投げ付ける。

本当の俺を見たら、彼女は幻滅するんじゃないか?

そう思ったら、もう彼女の前で素を出すことはできなくなった。
それでも、少しでも彼女からの好意を向けられる可能性があるなら、俺はこれからも猫を被り続けるのだろう。








「名前ちゃーん!」

「あ、こんにちは。今日の講義は終わったの?」


いつも購買部に買い物よりも私とのお話を楽しみに来てくれてる女の子。
私をお姉ちゃんとか、女友達みたいに接してくれるから私もついつい構ってしまう。


「うん!あ、ねえねえ!この前名前ちゃん、優しい男が好きって言ってたじゃん?それでさっき講義受けてて思ったんだけど、瀬尾先生とか優しい感じすんじゃん!あーゆーのが良いの?」

「んー・・・。」


確かにこの前この子に優しい人が好きって話した。
瀬尾先生は優しげな雰囲気だし、大人の魅力もある。

でも、私の言ってる優しさって・・・



それは私がこの大学で働き始めたとき。
偶然に瀬尾先生の研究室の前を通ったときだった。

『潔、お前熱あるだろ。』
『え、いえ、その、』
『はぁ・・・。とりあえずそこに寝てろ。』
『でも、こ、ここは志音の、』
『あーん?お前は志音が病人が寝床を奪って怒る奴だと思ってるのか?』
『!!い、いえ!』
『だったら大人しく寝てろ。』
『はい・・・。』

強い語調だけど、その学生さんの事を心配してるのが伝わってきて。
その後に購買でスポーツドリンクやゼリー、冷えピタを沢山買って行かれて。

あぁ。
この人はすごく暖かくて優しい心の持ち主なんだなって、思って。

気付いたら構内で彼の姿を目で追っちゃって。
早乙女さんが購買に来てくれて、お話をするのが楽しみで。
瀬尾先生の研究室の皆さんに対する態度を私の前では絶対見せてくれないから、世間話はできても心を開いてくれてはいないんだって、少し寂しくなって。

毎日、早乙女さんの事ばかり考えちゃってる。



「見えない優しさも、魅力的だよ?」

「えー。見えなきゃ分からなくない??」

「ふふっ。いいの。私には分かるから。」

「変な名前ちゃん。」



いつか、本当の早乙女さんとお話をしたい。
いつか、「優しい貴方が好きです。」って伝えたい。







「ねえ郁人さん、名前さん学生にも凄く人気だから、うかうかしてたら取られちゃいますよ。」

「そんな事ぁ、分かってる!!」


くそっ、俺だって伝えたい。
「こんな俺だけど、お前が好きだ。」って。








続編も書く予定ですよー。
ログストの郁人さん素敵だったから引用しました。
でもうろ覚えだからなんか違う←


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