助手はバラしたい
助手は隠してるの続編



「おはようございます。」

「早乙女さん!おはようございます!」

「・・・。」

「?早乙女さん・・・?」


今日も俺は彼女に会う為に購買部に足を運ぶ。
笑顔で俺を迎えてくれる彼女に胸が熱くなるのと同時に、可愛の言葉が頭を過る。



『ねえ郁人さん、名前さん学生にも凄く人気だから、うかうかしてたら取られちゃいますよ』



分かってる・・・。
名字が俺の事をただの客だって思ってる事も、本当の自分を見せもしない俺に可能性が無いってことも。

だが、素の俺を見せて幻滅されるのが怖い。


「早乙女さん?どうされました?」

「あ、いえ。じゃあこれを。」

「はい!」


彼女の笑顔を向けられなくなるのが、怖い。





「もー!郁人さん結構ビビりですよね。」

「はあ!?」

「本当の事じゃないですか。ね!志音。」

「んー。たしかに、ちょっといつもの郁人さんらしくはないかな。」

「くっ、お前らに何が分かる!!」

「郁人さんがビビって名前さんに積極的にいけてないのは分かるよ。」

「っ〜〜〜!!」


糞ほど腹が立つが、こいつらの言ってることは間違ってない。
間違ってないから腹が立つ。


「そんな郁人さんにお知らせです。」

「・・・何だ。」

「さっき購買で名前さん、学生部の男の人に軟派されてましたよ。」

「な、何だと!?」

「どこかの誰かさんがうだうだ猫被って大人しくしてる間に、ほんとに名前さん取られちゃうかもしれないですね!」


・・・うるさいうるさい!!
行動を起こせば良いんだろう!?

やってやろうじゃねぇか・・・。
幻滅?
むしろこの俺の男らしさに惚れされてやるよ!!!





とは決意したものの、それは苦戦を強いられた。


「名字さん、実は俺はっ、」

「はい?どうされました?」

「っ、いえ!今日はこのパンを瀬尾さんに頼まれまして。」


いざ素の自分で接してみようにも、年季の入った猫被りが容易に解ける訳もなく。


「お、おい!」

「??」

「・・・美味しいですよね、このコーヒー・・・。」

「あぁ、はい!ここのメーカー、私も好きなんです。」

「はは・・・。」


というか、やはり単純にビビってしまってる。





「はあ・・・。」


ヒソヒソ

「郁人さん、何回も失敗してるんだって。」
「案外、チキン・・・。」
「し、志音っ、い、言い過ぎ・・・、」
「えー。潔くん、志音の言うとおりだよー。」
「か、可愛さんも、」


「・・・聞こえてるぞ、お前たち・・・。」


ヒイッと潔が青くなるのが目に入るが、それに構う余裕も無いくらい気分が落ちてるのが自分で分かる。


「・・・少し出てくる。」

「はーい。」


論文を進める気分でも無いから、宛もなく構内をブラつく事にする。

くそっ。
この俺がこんな虚無の時間を過ごすなんて・・・!



「も、いい加減にして下さい!」


!?

ちょうど中庭に面したピロティを歩いてた時だ。
彼女の叫ぶような声が聞こえて顔を上げる。


「良いじゃないですか!良い店を見付けたんです。ぜひ一緒に!」

「ですから、その気はないって、」

「名前さん、恋人いないんですよね!?じゃあ、」


あいつ・・・!!

そこには嫌がる名字に迫る男の姿があった。
たしかあいつは可愛が言ってた学生部の奴だ・・・!!


「何やってるんですか?」

「さ、早乙女さん!」


彼女と男の間に入り、庇うように彼女を背に隠す。


「な、何ですかいきなり・・・!」

「名字さん、嫌がってるようでしたが?」

「そんな事ないですよ!今晩、夕食を一緒にする約束をしていただけで・・・、」


あーん?
そんな言い訳が通用するかよ。


「そうは見えませんでしたが?」

「っ、そうだとしてもあんたには関係ないだろ!!俺と彼女の問題だ!!恋人でも何でもないあんたに口出しされる筋合いは無い!!」

「・・・はっ、」


そうだな、確かに俺は恋人でも何でもない。
でも、


「自分の事を棚に上げてごちゃごちゃうるせぇ!」

「!?」

「恋人でも何でもない?お前もそうだろうが!むしろ困ってる女に無理矢理迫る野郎の方が悪質だと思うけどな!!」

「な、お、俺は、」

「何だ?なんか反論すんのか?良いぞ言ってみろ。ただし自分の立場を考えろよ。」

「何だと、」

「お前のとこの上司とは懇意にさせてもらってるからな。これ以上彼女を困らせるなら今日迫ってた事を全て話す。むしろ脚色して話す。」

「!!そ、そんな話、信じるか!」

「お前の事は知ってるぞ。度々遅刻やら何やらで上司を困らせてるそうじゃねぇか。そんなお前と品行方正で通ってる俺。どっちの話を信じるかは火を見るより明らかだと思うがな。」

「っ、くそ!俺だってお前の本性バラしてやる!!」

「やってみろ。お前の証言ごときで揺らぐ工作はしてきてない。」

「っ、」

「分かったらとっとと失せろ。この色ボケあんぽんたん!!」

「覚えてろ!!」

「はっ、捨て台詞まで小物だな。」


奴は悔しそうに顔を歪めながら走り去っていった。
本当にバラされると少し痛いが、あの調子だと誰にも言う事ぁないだろ。




「あ、あの、早乙女さん・・・。」

「!!」



そ、そうだ!
途中からすっかり頭から抜け落ちてが、彼女の前だった・・・!


「あ、あの、名字さん、こ、これは、」

「ありがとうございます!!」


咄嗟に言い訳をしようとする俺の言葉を遮って彼女は頭を下げる。


「本当に、助かりました・・・。早乙女さん、ありがとうございます。」

「っ、い、いえ・・・、」


俺の顔を真っ直ぐに見上げて、笑顔で礼を言う彼女の顔に戸惑いや恐れは無い。


「・・・素の俺を見て、ガッカリしましたか・・・?」

「え、」

「貴方の前では、優しい俺を演じて・・・良い格好をしようとして、あいつと変わらない・・・。幻滅、したんじゃないですか・・・?」



『優しい人が好き』


その理想に沿うように演じ続けた俺。
とんだ嘘つき野郎だ。


「私、知ってましたよ。」

「・・・は?」

「私、早乙女さんが本当はもっと、その、雄々しいって知ってました。」


・・・雄々しい・・・。
大分、言葉を選んでくれたんだな・・・。

というか!


「な、なんでっ、」

「・・・前に、熱を出された学生さんを強い語調でしたが心配されてる姿を見ました。その後、その学生さんの為に沢山の飲み物や冷えピタなどを買われてるのも知ってます。」

「っ、」


じゃ、じゃあ俺は・・・
本性がバレながらも優男を演じてたっていうのか!?
とんだピエロじゃねぇか!!


「はっ、情けねぇ・・・。」

「な、何でですか!!私は、私は!そんな早乙女さんをいつも見ていて・・・!・・・あっ、」


は・・・?
何だと・・・?


「・・・私には本当の顔を見せて下さらないから・・・、だからもっと仲良くなりたいって思ってて・・・。不器用だけど優しい早乙女さんをもっと知りたくて・・・それで、私っ、優しい人が好きって言ってました・・・それは、早乙女さん、あの、」

「もう良い。」

「っ、」


くそっ、俺は・・・
とんだ勘違い野郎だ。
遠回りをして、余計な事をして、あいつらに散々からかわれて、挙げ句好きな女にここまで言わせてる。

ここで言わなきゃ男が廃るだろ。


「好きだ。」

「っ、」

「いつも笑顔のお前を見れるから、頑張れる。」

「さ、早乙女さん、」

「こんな俺でも良いなら、俺を選んで欲しい。お前が、好きだ・・・。」


毎朝毎朝、お前に会うためにだけに購買部に通った。
それでもそれ以上行動を起こせなかったチキン野郎だが、お前を好きだって気持ちは誰にも負けねぇ。


「不器用な早乙女さんが、不器用だけど優しい早乙女さんが好きです。」

「・・・。」

「見てるだけしかできなかった、でも、貴方が好きです。」


あぁ、俺たちは似た者同士だったんだ・・・。


「私を、恋人にして下さい・・・!」

「・・・覚悟しろ、俺は、ただの甘っちょろいだけの男じゃないぞ・・・。」

「ふふっ、はい。知ってます。」



やっと、本当の俺でお前と話す事ができた。
やっと、俺のものだ。

もう、離さない。














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