小説 | ナノ


▼ 019

「糸ヶ丘!いた!」
「いません」
「いるじゃん!で、どう?」
「どうとは」
「インターハイ予選!調子はどうなの?」
「んーーーーーー」

別にコンディションは悪くない。練習でも自己新レベルを出せているし、このままいけば今までで一番いい成績を出せるんじゃないかと顧問の先生にも言ってもらえている。

「即答できないようじゃ駄目じゃん」
「そうなんだけどさ、この種目で出場って初めてだから具合が分からなくて」
「? 今年は跳ばないの?」
「高跳びも出るよ。それと七種競技ってのにも出るの」
「ななしゅきょうぎ?」
「跳んで、走って、投げる競技」
「へー初耳。楽しいの?」
「うん、すっごく!」
「……ふーん」
「(興味なさそう……)」

めずらしく成宮くんがこちらに話を振ってくれたかと思えば、やはり関心がないようで大した反応も返ってこなかった。野球の話だったら楽しそうにするけど、やっぱり自分の話しか楽しくないタイプの人間だなあ。……いや、単純に私のことがキライだから私の話がつまらないのでは。

「七種類って何するわけ?」
「うん?あー……えっとね」
「何?自分の出る競技も説明できない頭なの?」
「そんなことないけど……成宮くんって陸上の話聞いていて楽しい?」
「……はあ?」

素直に聞いてみたのだが、思った以上に眉間に皺を寄せられてしまう。

「楽しいかどうかじゃなくて、単純に気になるから聞いてるの!文句ある?」
「文句はないけど、野球の話している時との差が、」
「そりゃあ野球の話する方が楽しいに決まっているじゃん!」
「さいですか」
「糸ヶ丘だって陸上の話している方が楽しそうじゃん!」
「……そうかな?」
「そうだよ!だからわざわざ振ってやっているのに、何なのさその態度は!」

なんだか怒涛の勢いで罵られてしまっている。ごめんなさいと心の中で繰り返しながら話を聞いていたら、ふと、何かが引っかかった。

「……わざわざ陸上の話を振ってくれていたの?」
「っ違いますしー!?」
「いや、だって今、」
「っあーもう!だってカルロと喋る時と全然態度違うじゃん!」
「そうかなー神谷くんと陸上の話ばっかりしているわけでもないけど」
「俺といる時全然笑わないし!」
「だって成宮くん、私のこと怒ってばっかりだから」
「そんなことないし!褒めるよ!」
「じゃあ褒めてよ」
「……っそれは、」

振ってみたが、この流れでお世辞の一つも出てこない。よっぽど私に対するライバル意識というか、敵対心が強いんだろうな。そう思うとなんだかおかしくてたまらなくなってきた。このタイミングで笑ってしまったら絶対に怒られるけど、正直、我慢ができない。


「……ふふっ……!」
「っ!? なんで笑ってんの!?」
「いやだって……っこの流れでお世辞のひとつも出ないって……あははっ!」
「笑うとこじゃないじゃん!バカにするなよ!」
「じゃあ褒めてみてよ」
「えっと!……ちょっと待っててよ!」
「あははっ!」
「だから笑うなって!」

次までに考えてきてやる!
そういって成宮くんは自分のクラスへと帰っていった。次がいつかも分からないし、そこまで考えないと出てこないんかいと思わずツッコミを入れそうになった。クラスではひとりで笑い続けるあやしい人になっているけど、どうにもこらえきれない。教科書を借りて戻ってきた神谷くんにあやしい目で見られたことは、言うまでもなかった。


(糸ヶ丘どうしたんだよ……)
(成宮くんが私のこと全然褒めれなくて……ふふっ!)
(あたま大丈夫か)

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -