小説 | ナノ


▼ 017

「糸ヶ丘!何見てんの?」
「雑誌」
「ファッション誌じゃん、笑える」
「笑いのツボ浅くない?」

友人が貸してくれたファッション誌をぱらぱらと眺めていたら、また成宮くんがやってくる。当然のように私の前の席にドンと座る。

「糸ヶ丘ってスカート履かなさそう」
「今履いているのは見えないのかな」
「それは制服じゃん。私服はどうせTシャツにジーパンでしょ」
「私があの1着しか持っていないと思っているの?」
「他にもあるんだ?」
「あるけどー……ラフなの以外も買えば?って陸上部の子に雑誌渡された」
「で、大して興味も持てず眺めていると」
「うっ」

大当たりだ。学内は制服、部活はジャージ、ちょっとした買い物ならTシャツとジーパンで過ごしている。ので、ちょっと都会に出るからオシャレを、なんて服装が全くない。他の陸上部もそんな雰囲気が強かったので別に気にしていなかったのだが、最近応援に来てくれた大学生になった先輩たちがすごくオシャレになっていたのに感動して、今部員たちの間でファッション雑誌が回し読みされている。それがいよいよ私にも回ってきた。

「だって普段私服着ないし、ねえ?」
「同意求めんな。俺はちゃんと服あるし」
「えっ前は私と似たような恰好だったじゃない」
「糸ヶ丘と出かけるのにオシャレすると思う?」
「私の扱い、ほんとひどいね」

とはいえ、私がTシャツなのに成宮くんだけすごくオシャレしてきたりしなくてよかったと、今更ながらに実感する。
成宮くんは私の手から雑誌を奪い、勝手にめくり始めた。

「女の服って種類多いよねー」
「そうなの、すごく難しい」
「難しくはないだろ、似合う服なんて限られているんだから」
「えーじゃあ私に似合うの考えてよ」
「糸ヶ丘はねー……」

更にぱらぱらとめくっていく。あまりにもざっくり読むので本当に考えてくれているのかと疑ってしまったが、案外適格なアドバイスがもらえた。

「スカートはロングね、脚ごついから」
「言い方」
「上はこういうのかなー、ひらひら多いのは俺の好みじゃない」
「成宮くんの好みは関係ないけど、私もレースはちょっと」
「あ、これ可愛いじゃん」
「これは……人を選ぶんじゃないかな」
「大丈夫だって、糸ヶ丘スタイルだけは……まあそこそこなんだから」
「褒めるなら最後まで褒めてよ」

そこそこって。鍛えているのでそれを言いたかったんだろうけど、そこそこって。しかし、成宮くんが指したトップスは、割と大胆に襟口の開いたデザインだった。なかなかに勇気がいる。それならばまだ前のページにあった、似たようなデザインで襟がしまった物の方がマシな気がする。

「ならこっちは?」
「それは色が微妙、糸ヶ丘は赤がいい」
「……赤ってあんまり着ないなあ」
「でも糸ヶ丘は似合うと思う」
「肌の色ベースがどうとかって話?」
「流石にそんなことまで知らないし」
「じゃあなんで?」
「単純に俺が似合うと思っただけ」

さらっと言い流した成宮くん。本人はそのまま靴がどうのと言っている。しかし私は、そんなことを言われて動揺してしまっていた。

「糸ヶ丘って足何センチ?」
「……えっ、ごめん何て?」
「せっかくアドバイスしてあげているのに聞いてないとか酷くない!?」
「ご、ごめん」

次の話が頭に入って来ず、反応できなくて怒られた。いやでも、突然あんなことを言われたらびっくりしてしまうのは仕方がない。びっくりというか、なんというか……とどのつまり、ちょっとだけときめいてしまったのだ。


(……成宮くんも大概人たらしだよね)
(はー?糸ヶ丘をたらしこめる予定なんてないんだけど)
(それは分かっているけど……まあいいや)

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