小説 | ナノ


▼ 016

「……財布忘れた」
「何しにコンビニ来たんだよ」
「勝之、千円貸して」
「やだ、この間の500円も返してもらってないし」
「ちぇっ……あ、いいこと思いついた」


***


自宅で宿題をしていると、窓がこつんとなった。虫かな。
そう思ったのだが、また当たる。嫌な予感がした。


「……糸ヶ丘ー!遅いー!」
「成宮くん、何してるの」
「お金貸してー!」
「……だから嫌だったのに」
「なんか言ったー!?」
「何も!待ってて!」

仕方がないので上着を羽織り財布を持って、玄関まで降りていく。お母さんが「コンビニ行くならアイス買ってきて」と言ってきたのだが、別にコンビニまで行く気はなかった。ああでも言われると食べたくなってくる。

「やっほー!」
「やっほーじゃないよ。財布忘れたの?」
「当たりー!しかも勝之が貸してくれなくて」
「勝之?……ああ、体育委員の白河くん」
「あいつ本当ケチだから仲良くならない方がいいよ」
「紹介の仕方がひどい」

とはいえ、体育祭の時に親しげな様子だったのを覚えている。結局、仲はいいんだろう。

「成宮くんは誰とでも絡むよね」
「ちゃんと人は選んでいるよ」
「こいつなら金貸してくれるって?」
「うん!千円でいいよ!」
「……ちゃんと返してよね」
「ありがと!」

あからさまなため息をついても、別段申し訳なさそうな態度を取るわけでもない成宮くん。むしろ当然といった様子だ。感謝の言葉が出ただけでもめずらしいのかもしれない。

「……つーか糸ヶ丘、よくそんな恰好で外出てきたね」
「羽織ってきたし、そもそも中だからね」
「でも足!出し過ぎ!」
「そうかなー、いつもこれでコンビニ行くんだけど。あ、そうだアイス」
「それでコンビニ行く気!?」
「お母さんが買って来てって。着いて行ってもいい?」
「駄目!勝之いるんだって!」
「白河くんいるから何なの」
「ほらあいつ、むっつりスケベだから」

全然関わったこともないのだが、きっと白河くんはそんな人ではないと思う。成宮くんが勝手に言っているだけだろう。

「……分かった、じゃあ俺が買ってきてあげる」
「それは申し訳ないよ」
「どうせ裏手だからすぐだし、お金もあるし」
「私のね」
「お礼だと思っておきなよ。何がいい?」
「じゃあダッツのバニラ2つお願いします。ていうかお金は返してよ」

そのまま千円札を握りしめて、成宮くんは走っていった。もしかしておつりは貰えると思ってはいないだろうな。今後ないかもしれない成宮くんの親切なので、ありがたく受け取ることにした。

「かのえ、コンビニ行かないの?」
「今行ってくれているのー」

玄関に顔を覗かせた母親には、成宮くんが、とは言わない。お母さんミーハーだから、成宮くんのこと知っていそうだし。長ジャージ履いておいた方がいいかな。まあ今度からでいいや。そんなことをぼんやり考えながら成宮くんを待っていた。


(どこから千円出したの)
(降ってきた!そんで今からダッツ2つ買う!)
(2つも買ったら他の物買えないんじゃない?)
(本当じゃん!ダッツやめてガリガリでいいや)

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