小説 | ナノ


▼ 015

「糸ヶ丘ー!なにやってんのー!」
「どうみても部活だよね」
「それは分かるよバーカ!」

もう成宮くんから何か言われても気にならなくなってきた。ここは陸上部のグラウンドで、ジャージ姿の私がいれば、当然部活中だ。

「柔軟しているの、今からちょっと走ろうと思って」
「なんで?跳びなよ」
「跳ぶのはもう終わり、今からは走る時間」
「なんで?跳びなよ」
「……話聞いています?」

何を言われようが気にならないけれど、何も聞いてくれないのはちょっと困る。会話にならないから。

「むしろ成宮くんこそ何しているの」
「俺? クールダウン中」
「なるほど。じゃあさようなら」
「なんで!」
「いや、クールダウンしなよ」
「じゃあここで柔軟するー」

そう言って勝手に陸上部のエリアにしゃがみ込む。邪魔だなあと思いつつも、しっかり身体をほぐし始めたので文句は言えそうになかった。(後から考えたら「ここでしなくてもよい」と言えばよかった)

「つーか今から部活って遅くない?」
「やり投げの人待っているの。今日外部グラウンドから戻るの遅いらしくて」
「へー……仲いい人?」
「うん、中学からの先輩」
「ふーん……付き合っている、とか?」
「えっ違う違う、最近不審者出るから帰宅は複数でって先生が」
「あっそういうやつね」

陸上部の放課後練習は、種目ごとに終わる時間が異なる。そのため、帰る時間はバラバラだ。そしてやり投げは人数が少ないので、帰る時いつもさみしいと嘆いていた。

「糸ヶ丘を襲う男なんていないんじゃない?」
「まあ、それはそうかもね」
「全然女の子らしくないし、そもそもジャージで色気ないし」
「まあ……そうかもね」
「つーか、送ってもらうなら他の先輩でいいじゃん」
「ん?あーごめん勘違いさせたね、私が先輩をバス停まで送るの」
「は?」
「先輩って女の人だよ。一人じゃ怖いって言っていたから私が名乗り出たの」
「……はあ!?」

さっきの会話じゃ、先輩が男だと思われても仕方ないな。謝ったのだが騙された(というか勘違いした)のが気にくわないのか、突然大きな声を出す成宮くん。前屈しながらでよくそんな声が出せるな。

「よくその体勢で大声出せるね」
「そんなのどうでもよくて!なんで糸ヶ丘が送るわけ!?」
「バス停近いから」
「……送ってからどうするつもり?」
「どうって……まっすぐ家まで帰るよ」
「不審者!出てるって!言われているじゃん!」
「だってまさか私が狙われないだろうし……」
「分かんないでしょ!変な趣味だったらどうするの!」
「(……私なら大丈夫って言ったの成宮くんなのに)」

ストレッチが終わったのか、立ち上がった成宮くんは、「ちょっと待ってて」と言って野球グラウンドへ戻っていく。かと思えば振りむいて「その先輩誰!」「クラスは!」と叫ぶ。私も叫んで返事した。


***


「じゃ、ちゃんと送って行ってよね!」
「任せとけ」
「寮住みなのにごめんね、あとかのえちゃんもありがと!」
「いえ、お疲れ様です」

その後、先輩と合流して着替えを終えたタイミングで、成宮くんと野球部の先輩らしき人が現れた。どうやらこちらの先輩と同じクラスらしい。野球部の先輩を見た途端、陸上部の先輩の声が上擦った様子をみるに、ははーん、なるほど。これは私が出しゃばらない方がいいみたいだ。

このまま帰ると邪魔してしまいそうなので、頭を下げ、見送ってから私も歩き始める。

「成宮くんありがとう」
「そっちの先輩の名前出したら、自分が送るってすぐに名乗り出たよ」
「なんだ、いいことしたね」
「じゃ、そろそろ糸ヶ丘も、」
「うん。私も帰るね。また明日」
「うん明日ー……違うでしょ!」
「うん?」

どうせ明日もくると思って言ったのに、また怒られる。成宮くんの起こるポイントは難しいな。

「仕方ないから送ってあげるって言ってんの!」
「言ってないよ」
「今言った!はやくして!」
「えー、でも申し訳ないし大丈夫。ありがとう」
「大丈夫じゃない!」
「でも送ったあと成宮くんどうするの」
「帰るに決まってんじゃん」
「変な趣味の不審者が出たらどうするの」
「この俺に手出しできる不審者だったら、誰連れてても防げないでしょ」
「まあ、それもそうか」
「ということで、ほら、帰るよ」
「ごめん、家こっち」
「言えよ!」
「聞いてよ」

一応気を使ってくれたのかと、ちょっとムズムズしてしまう。案内しながらだとあっという間だ。あまり家を知られたくなかったのだが、成宮くんの優しさに触れられた分と考えたらおつりは十分だろう。


(このコンビニに裏なの?部屋どこ?今度石投げてあげる)
(やっぱり家の場所知られたくなかったかなー……)



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