小説 | ナノ


▼ 012

「カールロ!糸ヶ丘は?」
「……お前ほんと糸ヶ丘のこと好きだな」
「はー?そんなわけないじゃん」

昼休みが終わって、個人種目前にからかってやろうと隣のテントまで来たのに、どうやら既に招集がかかっていたらしい。ま、どれだけ頑張っても俺の獲得ポイントの方が上なのは確定なんだけどね。

「そういや、カードになんて書いてあったんだ?」
「ぜってー言わない」
「白河も驚いていたくらいだもんな、好きな人とか?」
「絶対!言わない!」

あの後クラスに戻ってからも大変だった。こっちのクラスは俺と糸ヶ丘が仲良くないって知っているけど、俺のクラスじゃ知らないやつも多いからふざけて茶化してくるやつがたくさんいた。あと、野球部の試合によく来てるっていう先輩たちからも昼休みに聞かれたし。ここまで来る途中でもなんか見たことある後輩に聞かれたし。


「あ、」
「どうした」
「さっき同じこと聞いてきた1年、糸ヶ丘にプレゼント渡してた子だ」
「へー、恨まれているんじゃねーの」
「なんで俺が!」
「『憧れの糸ヶ丘先輩に手を出さないでください!』ってことだろ」
「後輩って女子だよ!?なんでそうなるのさ!」
「そりゃあ糸ヶ丘がモテるからだろ、ほら」
「あん?」

カルロがあごをしゃくった方をみると、既に走り高跳びは始まっていた。でも別に声援がとぶわけでもなく、つーか糸ヶ丘も跳んでいない。

「めっちゃ静かじゃん。ていうか糸ヶ丘飛んでないし」
「ギャラリー見てみろよ。あの辺全部糸ヶ丘待ちだろ」
「えー、ただ高跳びを近くで見たいだけじゃない?」
「まあ見てろって。一回見たことあるけど、マジですげーよ」

カルロがいうのでおとなしく見守る。ルールはよく分からないけど、だんだん高くするっぽい。今で1メートルくらいの高さかな。

でも糸ヶ丘は全然飛ばないし、他の生徒もすぐに失敗する。ようやく陸上部らしい先輩がそこそこの高さを成功して拍手をもらっているが、それもちらほらとしたものだ。俺の方が、よっぽどすごい。


「あーーーひまーー……っ!?」
「お、きたぞ」


糸ヶ丘と先輩。残り2人になった段階で、ようやく糸ヶ丘が列に混ざった。途端、グラウンドに黄色い声援が爆発する。


「何これ!?」
「糸ヶ丘が跳ぶっぽい」
「糸ヶ丘が跳ぶだけで!?」
「いいから見てろ」


言われて向こうを見ると、思ったよりも短い助走で糸ヶ丘が走る。走る。

そして跳んだ。


「……なんか、思ったよりも普通」
「まだこれからだな。あ、先輩がミスった」
「えっじゃあ糸ヶ丘が優勝?」
「あれより高いの飛んだら優勝だな。高さ上げるっぽいぞ」
「……!? なんかめっちゃあげてない!?」


体育委員に話しかける糸ヶ丘が、多分高さを伝えているらしい。伝えられた委員の男子が、目線くらいの高さにバーを調整している。マジであの高さを跳べるの?失敗したら恥ずかしくない?やめた方がいいんじゃない?

ドキドキしながら見ていたら、先輩が糸ヶ丘に何か耳打ちしている。「やだー!やりたくない!」と騒ぐ糸ヶ丘の声がこっちまで聞こえてきてウケる。やりたくないって何なんだよ。自分で高さ言ったのに。

頭を小突かれた糸ヶ丘が、しぶしぶといった様子で、バーから離れる。さっきよりもずっと距離を取って。


深呼吸した糸ヶ丘が、両手を大きく上にあげた。



「……何?手拍子?」
「陸上の大会だと観客煽って手拍子させることあるんだってさ。多分さっき先輩にやれって言われたんだろ」


糸ヶ丘の手拍子に合わせて、周囲の人も手をたたく。今やっている種目は高跳びだけで、グラウンドに残っているのは糸ヶ丘ひとり。多分、全校生徒が糸ヶ丘に注目している。

声援なんかよりも大きな拍手が、グラウンド全体をつつみこむ。



その音に合わせて糸ヶ丘が走る。みたことないくらい、ずっとずっと速く


そして、跳んだ

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