小説 | ナノ


▼ 009

「糸ヶ丘ー!いいこと思いついた!」
「却下」
「聞けよ!」

成宮くんはクラスに友達がいないのだろうか。昼ごはんを食べ終わってからであろう時間帯ではあるものの、こうもちょくちょく顔を出されると心配になる。

「体育祭で勝負しようよ」
「私女子なんですけど」
「知ってるよそのくらい!個人種目の点数!」
「あーそれなら……いやでも、やめておいた方がいいと思うけど」

成宮くんの提案に、私は反対する。男女で同じ個人種目に出られるわけもないから、平等な勝負にはならないだろう。そうした気遣いだったのに、成宮くんはニヤニヤして座ったままの私を見下ろしていた。

「ははーん?つまりは自信ないんだ?やめてもいいけど?」
「じゃあやめよう」
「やめませーん!じゃ、次の授業で種目決めだから!」

じゃあねーと、元気よく去っていった成宮くん。
よほど自信があるのだろう。しかし、怪我を避ける個人種目となれば、障害物競走や騎馬戦なんかは避けるはずだ。そうなってくると――


***


「神谷くん何出る?」
「どれでもいい。どうせ勝つし」
「か、かっこいい……!」

こちらのクラスでも当然、体育祭の種目決めの時間となった。
席替えで隣同士になった神谷くんに聞いてみれば、何とも男前なセリフが返ってくる。実際、陸上部の面々よりも神谷くんのタイムの方がいいはずだ。こういうところが、陸上部の切ないところである。

「陸上部どうするー?あと神谷」
「俺は長距離出るかなー短距離は神谷に任せた」

クラス委員長の仕切りで順番に決まっていく。どうやら多少なりとも本気で勝つ気らしく、やりたいものというより勝てる競技から決めるらしい。運動が苦手な人はどっちにしろ個人種目に出たくない人が多いからちょうどいいのかも。

「じゃあ一番ポイント高いので」
「それなら借り物競争だぞ」
「俺の足いらねーじゃん、なら100mでいいよ」
「女子は他に陸上部いないから、体力テストでタイム良かったやつ挙手して」
「えっ私は!?」

「糸ヶ丘はこれに決定だろ? お前が出なきゃ誰が出るんだよ」

委員長が黒板をたたく。いやまあ、そりゃ出るつもりだったけど。出るつもりだったけどこうもあっさり流されてしまうと天邪鬼な態度を取りたくなってしまう。なんだか成宮くんの性格が移っているみたいでイヤだな。やめよう。

そういえば成宮くんも、そろそろこれに気付いているんだろうか。



(ねえ!高跳びあるとか聞いてないんだけど!)
(去年もあったじゃん)
(はーマジずるい。そういうことするの本当にないわー)
(人の話聞こうとしない方がないわよ)




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