小説 | ナノ


▼ 007

「で、糸ヶ丘は何買うの?」
「テーピング」
「……怪我?」
「してないしてない。でも違和感あるとすぐ巻いちゃうから」

高校に入ってから大会の数が増えた。中学時代のように「大会までに治ればいいや」というのがあまりできないと気付いた私は、今までなら放置してきたような痛みでも気を付けるようにしている。

「まあ怪我はねー絶対したくないよねー」
「成宮くんって怪我したことある?」
「ない!天才だから!」
「天才は関係ないと思うけど」

贔屓にしているスポーツ店までやってきた。てっきり成宮くんは野球エリアへ行くかと思ったのだが、私の後をついてくる。部活の話をしている時は素直に聞いていられる話が多いので、まあいいや。

「糸ヶ丘はある?」
「中学時代にハードル失敗してスパイクで足刺した」
「うわーめっちゃ痛いじゃん……」
「あと円盤投げで手首捻挫したくらいかなあ。楽しくてやりすぎちゃった」
「理由がバカじゃん、捻挫は癖になるから注意しなよ」
「こればっかりは否定できない……」

陸上部はよっぽどのことがないと他人と接触して怪我をすることがない。だから怪我といえば自己管理による故障ばかりだ。私が捻挫した時も、特別顧問から言われたメニューが厳しかっただとか、そういった理由はなかった。私は慣れない種目で調子に乗っていたからである。ぐうの音もでない。

「つーか、高跳び以外もやってたんだ」
「まあね」
「肩強いの?」
「成宮くんほどじゃないけど」
「俺ほどの女がいたら世界レベルだよ」
「それもそうか……あ、発見」

棚の前にしゃがんで、お目当てのテーピングを何本か手に取る。最寄りのスポーツ店じゃ見つからないからいつもここまで買いに来ていた。

「……今更だけどさあ」
「なに?」
「陸上部ってテーピングも支給ないわけ?」
「あるよ?でもこのメーカーがよくて自分で買っているの」
「何か違う?」
「このメーカーのは固定用だけどやわらかいから、補強用に使いやすいの」
「んーよく分かんない。治療よりも予防って感じ?」
「そうそう、そんな感じ。怪我しない為のテーピング」

故障はしたくないからなあ。そう呟くと成宮くんも同意してくれた。

「まあ消耗品だもんね、身体って」
「……なんだか意外」
「何が?」
「故障するなんて管理できてない!って言うかと思った」
「まあ自己管理できていないのは確かだよね!でも事故がきっかけで起こる怪我もあるし、どうしようもないじゃん」

なるほど確かに。野球部は他人と接触することもあるから事故も多いということもあってか、スラスラと意見が出る。そして成宮くんは案外視野が広い。ちょっとだけ、尊敬する。

「成宮くんはさ、」
「んー?」
「多分、野球やっている時はかっこいいんだろうね」
「野球やっている時”も”かっこいいんだよ!」

そういえば、結局まだ観に行ったことないな。でも甲子園を観に行くとしたら二カ月後か。まず稲実が代表になるかにもよるけれど、こっちも頑張っていい成績残さないとだ。帰ったらまた走り込みをしようと、突然やる気が湧いてきた。


(土曜のデート、どうだった?)
(デートじゃないよ神谷くん)
(まあまあ、照れるなって)
(期待しているところ悪いけど、鏡買ってテーピング買って解散したよ)
(デートじゃねーじゃん)
(だからデートじゃないよ)

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