小説 | ナノ


▼ 006

「……糸ヶ丘」
「どうしたの」

昼ごはんを忘れた友人に付き合ってめずらしく食堂へと行けば、なんだか様子のおかしい成宮くんに声を掛けられた。向こうをみれば、こちらもめずらしく野球部が団体でいる。

「……俺の意志じゃないんだけど、糸ヶ丘に頼み事とかしたくないんだけど」
「何か分からないけど、そんな不服そうな顔するなら私に頼むの止めれば?」
「でもあいつらが『そういうのは糸ヶ丘が適任』っていうから!仕方なく頭を下げているんじゃん!」
「下げてから言いなよ」

本題は分からないが、何かをするのに私が選ばれたらしい。しかし、なかなか本題に入ってくれないのでこちらは何も言えない。お弁当食べ進めて食べていていいかな。


「……ねえ、明日暇?」
「土曜日は部活で忙しいです」
「陸上部って午後から自主練でしょ」
「自主練なので忙しいです」


何の誘いかは分からないが、残念ながら明日は部活と自主練、その後はちょっとした用事があるので暇ではなかった。しかし、なぜか寄ってきた神谷くんが口を挟む。


「糸ヶ丘は明日早めに切りあげてスポーツ店だろ」
「買い物行くんだ?ならちょうどよかった!」
「待って、神谷くんはどうして私の予定を知っているの」
「休憩時間にテーピングを貧乏くさい使い方していたから」
「言い方!合っているけど!」
「カルロすげー!探偵みたい!」
「だろ?」

こんなにもペラペラ口をはさむ探偵がいてたまるか。二人で盛り上がっている隙に去ってしまおうと思ったのに、成宮くんは空いていた私の隣に座り始めた。

「いや、どっちにしろ自分の買い物あるから忙しいの」
「どこ行くの?駅前?」
「クーポンハガキ来るとこ」
「あーあっちね!部活いつ終わる?夕方には終わるよね?」
「終わりません、無理です」
「17時くらいならいいよねー終わったら校門でいい?」
「全然よくないです」
「じゃあ明日ねー!」
「え、いやちょっと!ねえ!」

言ったかと思えばそのまま走り去ってしまう。嘘でしょ、これは約束したことになってしまうのだろうか。


***


「遅い!何してんの!」
「外部の競技場から急いで家に帰って、わざわざ着替えて学校にきました」
「こっちも暇じゃないんだからね、ほら行くよ」
「……」

嫌味というものを知らないのか。それとも知ってなお、この態度なのだろうか。いっそ清々しいくらいの自分勝手で尊敬する。絶対こうはなりたくない。
夏ということもあり、お互いTシャツにズボンというラフな服装で駅へと向かった。



「で、成宮くんは何を頼みたいの?」
「ねーちゃんの誕生日プレゼント」
「お姉さんいたんだ」
「2人いるよ。そんで実家に居座っている方が来月誕生日」
「ちゃんとプレゼント渡しているなんて、仲いいね」
「渡さないと殴ってくるんだよアイツ」
「仲……いいんだよね?」

電車に揺られながら今日の目的を聞く。なるほど、それで誰かについてきてほしかったのか。しかし成宮くんのお姉さんのことなんてさっぱり知らないのだが、私で力になれるような人物なのだろうか。

「お姉さん陸上しているとか?」
「ううん、汗かくこと自体無理ってタイプ」
「えっなんで私呼んだの」
「……ほんっとーに悔しいけど、糸ヶ丘の選ぶ物って評判いいらしいじゃん」
「まあ友達にあげるものは結構考えるけど……でもお姉さんのこと知らないし、自分で選んだ方がいいんじゃない?」

随分と不満そうにしながらも、私からのアドバイスを求める成宮くん。
そんなにも顔をしかめるくらいなら、一人で選んだ方がよっぽどいいと思う。しかし、そうもいかないようだ。

「だってさー、毎年俺のプレゼント文句言ってくるんだよ?」
「そうなの?照れ隠しじゃなく?」
「照れ隠しで舌打ちする!?」
「……しないかな」
「でしょ!?あ、着いた」

扉が開く前に立ち上がった成宮くん。そんなに急がなくても、と思ったのだが、彼のお眼鏡に適うプレゼントが見つからなかったら、私の買い物時間がなくなってしまうのではないだろうか。そう思うと不安が湧いてきてしまったので、私も成宮くんのあとを急いだ。



「ちなみに今まで何あげたことある?」
「んー、去年はスポーツタオルでその前はお菓子」
「スポーツしないのにスポーツタオルはどうかと思うけど、食べ物も駄目かあ……難しいね」

ショッピングモールに着いて、決まった店もなくふらふらと歩きながら、とりあえず当てを探して質問をする。

「でしょ!?ゴディバだよゴディバ!」
「……それって焼き菓子?」
「ゴディバといえばチョコが定番じゃん?」
「んー多分どろっどろに溶けていたかなー」

まさか7月にチョコレートをプレゼントされるとは、お姉さんも思っていなかっただろう。とはいえ、一昨年といえばまだ中学3年生だ。そんな時からゴディバを渡そうとする成宮くんの感覚がすごい。方向性が間違っているだけで、良い物を渡そうとする気持ちと努力がみえる。あと財力。

「お姉さんがほしがっているもの知らない?」
「わかんねー。化粧の色々は友達からもらっているし、彼氏にはいつも高いアクセサリーねだっているっぽいけど」
「うーん……じゃあやっぱり食べ物か家で使うものかなあ」
「なんで?」
「実家暮らしなら友達よりも弟である成宮くんの方が何があって何がないのか分かりそうだなーって」
「でも俺いま寮だし」
「前に帰ったのいつ?」
「年末年始」
「結構前だね……じゃあお菓子の方が無難かな」
「あっでもバリバリに割れた鏡ずっと使ってる!捨てるの面倒ってまだ変えてないはず!」
「じゃあその線で探そうか」

目星が付いてからは早かった。「こういうとこの好きっぽい」と言って北欧雑貨のお店に入ったかと思えば、壁掛けできるタイプの鏡を物色している。彼のお姉さんの趣味はしらないけれど、人を選びそうな物ではなくシンプルなデザインを選んでいる辺り、やはりセンスはあるのだろう。方向性がおかしいだけで。



(糸ヶ丘!買ってきた!郵送も頼んできた!)
(喜んでもらえるといいね)
(舌打ちされたら糸ヶ丘のせいって思うと気が楽!)
(こらこら)

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