小説 | ナノ


▼ 002

「糸ヶ丘、おはよ」
「神谷くん?どうかしたの」
「朝から鳴に絡まれていただろ」
「あー……」

朝のSHRが終わると、クラスでもめずらしい人に声をかけられた。どうやら同じ部活のメンバーのことを心配してのことらしい。

「なんだか成宮くんの気に障ったようで」
「あいつはよく分からないことでキレるんだよ、気にしないでいいぞ」
「そう言ってもらえると安心する。ありがと」


「糸ヶ丘ー!!!このクラス糸ヶ丘いるー!?」
「安心できない」


ガラッと後ろの扉が勢いよく開いたかと思えば、大きな声が聞こえてくる。めーちゃんどうしたの?なんて声をかける女子に「糸ヶ丘いる!?」とこれまた大きな声で聞いていた。

「いるじゃん!返事してよ!」
「います」
「遅いよ!」
「何しにきたの?」
「ん?糸ヶ丘のクラス確認しに来ただけ」
「……本当に何しにきたの」
「カルロと仲いいの?」
「マジで付き合う5秒前」
「はあ!?」
「神谷くん嘘言わないで」

成宮くんは本気にしているようで、こいつのどこがいいの!?と私を指さして騒いでいる。失礼極まりない。神谷くんも神谷くんで、テキトーに発言したものの、別段私を持ち上げる内容が出てこないようでうなっている。二人して何なんだ。

「糸ヶ丘の良いところねー……気遣いできるし話していて楽しいぞ」
「そのくらい俺もできるし!?」
「本当に?」
「糸ヶ丘失礼じゃない!?」
「成宮くんのことあんまり知らないけど、既にそうじゃないイメージがある」
「まあ合ってるぞ」
「カルロまで何なのさ!」

地団太踏む人なんて久しぶりにみた。きぃきぃ怒りながら神谷くんを右手で叩いている。

「そんな叩かないであげてよ」
「右腕じゃん!ちょー優しい!」
「殴っているのにどこが優しいの」
「左手だから本気じゃないって言いたいらしい」
「成宮くん左利きなんだ」
「はー!?しらないの!?」
「知らないです」

ごはんを一緒に食べるわけでもない同級生の利き手なんて知るわけない。それが普通だと思ったのだが、「鳴ちゃんはサウスポーだよ」とクラスメイトから合いの手が入る。有名だったんだ。それを聞くと少し申し訳ないという気持ちが湧いてくる。

「野球疎くて。すみません」
「別にいいけど!俺も糸ヶ丘の種目興味ないし」
「陸上部なことは知っていたんだ」
「き、昨日まで知らなかったし。全然興味ないし」
「糸ヶ丘は砲丸投げで去年全国行っていたんだよな」
「高跳びだよ神谷くん」

神谷くんはクラスメイトにもう少し関心を持ってほしい。知らないなら知らないでいいのに、どうして勘で当てようとしてくるのだろうか。

「高跳びってジャンプするだけでしょ?それでモテるわけ?」
「まあ跳ぶだけですけど……」
「糸ヶ丘は足も速いぞ」
「カルロより?」
「神谷くんより足速い女子いたら世界レベルだよ」

私がモテるかモテないかは分からないけれど、その原因が「足が速いから」という小学生のような理由に落ち着きそうになってしまっている。もうそれならそれでいいから納得して帰ってほしい。というか、成宮くんのクラスは次移動じゃなかったのだろうか。

「……女子人気は分からないけどさ、」
「ん?何?」
「移動教室で遅れるような人は、先生からモテないんじゃないかな」
「……やべっ!次理科室じゃん!」

そういうと入ってきた時と同じく、乱暴にドアをあけて去っていく成宮くん。ようやく台風が去った――と落ち着いたのも束の間、彼を見送った扉からひょこっと顔を出してきた。



「ねえ!今日練習見に行ってあげるよ!」
「……はい?」
「この俺がわざわざ寄ってあげるんだから、かっこいいとこ見せてみなよ!」
「いや、ちょっ」


ガラリ、扉がようやく閉まった。ひとりいなくなっただけで教室も随分静かになった気がする。

「……まあ、流石の鳴もおとなしく見学していると思うぞ」
「今日は高跳びじゃなくて単距離練習してる日なの」
「へー、毎日飛ばないんだ」
「高跳び以外の種目もあるからね。どうしようなー練習場所違うのに」
「いいんじゃね、呼び止めたのに聞かなかったのは鳴だし」
「……ま、それもそうか」

別に成宮くんに練習風景を隠したいわけじゃなかったけれど、案の定この日の放課後、彼は私の姿を見つけることはできなかったのである。


(ジャンプしてなかったじゃん!サボり!?)
(短距離練に混ざっていたからだよ)
(なんで!?種目は高跳びじゃないの!?)
(えーっと……色々あって)
(説明面倒くさがるな!)

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