小説 | ナノ


▼ 001

「鳴さん、また差し入れもらったんですか」
「へへーん!エース様は別格だからね!この学校じゃ断トツ人気だもん!」
「あ、でも学校内でいえば2年生で人気ある方いますよね」
「は? 誰それ、俺よりモテる男がいるわけ?」
「いや、男じゃなくて――」


***


「糸ヶ丘かのえ!」
「……はい?」


朝練が終わり、部活仲間と下駄箱にきたタイミングで、突然鞄を掴まれ呼び止められる。その衝動と、名前を呼ばれたこととで振り返れば、そこにいたのは、隣のクラスの成宮くんだ。はじめて声をかけてきた相手に疑問を浮かべていたら、一緒に歩いていた女子たちがにやにやとして先に去っていく。

「えっと、成宮くんだよね。どうかしたの」
「なんで名前曖昧なわけ!?」
「あーごめんなさい、はじめて話すから呼び方どうしようかと思って」
「呼び方とかどうでもいいし!」
「(何なんだ一体……)じゃあ成宮くんって呼ぶね。何か用事でも?」

同じ陸上部の面々は色恋沙汰だという様子で去っていったが、成宮くんの表情からは微塵もその気配が感じられない。何か野球部に迷惑でもかけてしまったのだろうか。

「……成績優秀、スポーツ万能」
「ん?」
「おまけに品行方正で先生からの信頼も厚いって聞いたけど!?」
「……一体なんの話でしょうか」

とりあえず、何かやらかしたわけではなさそうだ。靴を履き替えながら会話を続けようとする。が、

「ちょっと!ちゃんと聞いてんの!?」

ガシャンと靴箱が揺れる。下駄箱と成宮くんの間に、私。彼の右腕が私の靴棚を勢いよく閉めたままの体勢なので、どうにも距離が近い。なぜこんなに追い詰められているんだ。

「なんでお前みたいなのが俺より人気あるわけ!?」
「……はい?」
「樹に聞いたんだよ!あいつのクラスの女子が『付き合うなら誰がいい〜』って喋っていたら、満場一致で糸ヶ丘かのえだったって!」
「いやそんなの私知らないし……っていうか私、」
「そう!女じゃん!なんで!俺より!女子にモテるんだよ!」
「私に聞かれても……」

ひょいと彼の腕をくぐって教室へ逃げようとする。が、腕を引っ張られる。思わずバランスを崩し、彼の胸板に両手をついてしまった。顔をあげれば、相変わらずイライラした様子の成宮くんの顔が近くにみえる。


「……絶対、俺の方がかっこいい」
「うんうん、そうだね。成宮くんすごくかっこいいと思う。じゃあ私もう教室に」
「お前だけに言われても意味ないの!」

そのままの体勢で、成宮くんに怒鳴られる。正直、うるさい。

「……えーっと、じゃあどうすれば成宮くんは納得するの?」
「俺の方がかっこいいって分かったら」
「だからそれは誰基準なのよ」
「全員!全校生徒、全員に!」

そんな無茶な。いやむしろ全校生徒全員からかっこいいと思われようとするその意志はすごいと思える。私は全員から尊敬されるような人間には到底なれないので、勝手に頑張っていてほしい。



「よし、じゃあ私も応援するね。頑張ってね」
「は?なんで勝手に逃げようとしてんのさ!ちょっと待てってば!」

彼の足元がまだ外靴だったのを確認した私は、隙をみて彼の腕から逃げ、廊下へとのぼる。よく分からない宣誓をされたなあと終わったこととして捉えていた私は、まさかその後も成宮くんに絡まれ続けるとは思ってもいなかったのだ。

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