小説 | ナノ


▼ 06

「でさ!一也が俺の誘い断りやがったんだよ!」
「そんな経緯が!」
「お前ら何やってんだ」


お昼休みに呼び出してもらえたので、鳴先輩と中庭で休憩時間を堪能していた。ら、なぜか通りすがる神谷先輩。空気読んでほしい。

「かのえちゃんに野球教えてあげてんの」
「鳴先輩に鳴先輩のこと教えてもらってます」
「なんかズレがあるけど」
「俺イコール野球だし、大体あっているよね」
「そうですよ、神谷先輩はケチつけないでください」
「あーはいはい」

言いながら、私たちと同じ木で出来た席に座る。なぜ。

「糸ヶ丘は鳴のこといつから知ってんの?」
「先輩が高校1年生の夏です」
「まさにミーハーじゃん」
「……それは否定できませんが、」

ほら、こうなる。こうなると思っていたから言いたくなかったっていうのもあるのに。

「いーのいーの。ミーハー心だけで進学先変えらんないって」

神谷先輩にバカにされ、ちょっと落ち込んでいたら、鳴先輩が否定してくれる。優しい。かっこいい。素敵。

「知ってる?かのえちゃんって私立の女子校からわざわざ受験してきたんだよ?」
「へー、どこ?」
「青いワンピースみたいな制服のとこだよねー?」
「なんで鳴が答えるんだよ」

私もそれは思ったが、神谷先輩とじゃなくて鳴先輩に話しかけてもらえた方が嬉しいのでこのままでいい。

「鳴先輩、よく制服まで知っていましたね」
「あー、俺天才だから何でも知ってる」
「流石鳴先輩……!」
「女子校の制服詳しいのは褒められることなのか?」

なんでもかんでも、ちょくちょく口を挟んでくる神谷先輩。本当に、なんできたんだ。

「つーかあそこってエスカレーター式のとこだろ」
「そうですね」
「親御さん、反対しなかったのか?」
「理由は聞かれましたが、ここの方が偏差値も高いので」
「通い?」
「お姉ちゃんと二人暮らしです」
「えーっかのえちゃんそうなの?」

将来を考えて、もっと勉強できる環境がほしい。そして、自立した人間になりたい。そう伝えれば、親はすぐに納得してくれた。ちょろいもんだ。

「部活でもないのに親元離れるってアリなんだねー」
「稲城が私立でよかったです」
「へー、よかったねー」
「親からしたら、何といえない気持ちだろうな」

神谷先輩にそう指摘される。確かによくはないかもしれないが、実際、勉強もしっかり頑張れている。自立もできている。親としては子が成長して、私としては自由に過ごさせてもらっている。おまけにお姉ちゃんは家事をしなくて済む。みんな幸せだ。

「俺を追っかけてきたとは言わなかったの?」
「そ、そこまでは流石に」
「なーんだ、言っちゃえばいいのに」

その理由まではっきり告げると、流石に両親も驚いてしまうだろう。反対はせずとも、ちょっと戸惑わせるかもしれない。なるべくスムーズに事を進めたかった私は、「勉学のため」という1点突破で進学を成し遂げたのだ。

「それに、勉強のためといえば、部活入らなくても違和感ないので」
「実際は野球部見るためだけどな」
「野球部じゃなくて、鳴先輩をみるためです」
「そうだよカルロ、誰もお前を見に来ているわけじゃないんだよ」
「(何なんだよこいつら……)」

せっかくだから、何かしら部活には入ってほしそうだった。だけど、そんなことに私の時間を取られたくはない。

「でもかのえちゃんって運動できたっけ」
「運動は、正直そこまで」
「中学は?」
「放送部です」
「大会とか?」
「ないタイプの放送部です」

しっかりと活動している放送部なら、コンテストに出場したりもしているそうだが、私たちの学校は希望者のみが出場していた。私は希望していなかったので、昼と放課後に小さな放送室に集まって、ぐーたら過ごすだけの部員だった。

「かのえちゃんって好きなものとかある?」
「好きなもの……?」
「あ、俺以外にね」
「鳴先輩以外に……?」
「鳴のこと好きなのは当然なんだな」

神谷先輩が茶々入れてきたけど、スルーして熟考する。好きなもの。好きなもの。一体私は、何が好きなんだろう。

「趣味とか特技とかさ、」
「な、何もない気がします……」
「えーじゃあ中学の時って彼氏とかいた?」
「いえ、まったく」
「……糸ヶ丘って鳴と出会うまでどんな生活してたんだ?」

どんな、と言われても、中学生なんて大した生活もできない気がする。
放課後集まって、喋って、はしゃいで。でも確かに、そんなことしていた友人たちも、やりたいことを見つけて各々進学していった。高校に入って仲良くなった子たちもそうだ。みんな部活や趣味に打ち込んで、楽しそう。

でも、私だって鳴先輩のおかげでとても楽しい。だから、これでいいと思っている。


「まー高校生なんてそんなもんか、学校行事ふつーに楽しめるし」
「神谷先輩は楽しめないんですか?」
「カルロがっていうか、野球部は大会あって参加できないこと多いからねー」
「えっじゃあ球技大会も……?」
「それは出る、準備とかいらないし」

校内行事なら堂々と鳴先輩を見られる。その機会が失われたかと思ったのだが、どうやらそれは出てくれるらしい。よかった。

「ちなみに俺はバスケね」
「絶対観に行きます!」
「俺はサッカー」
「行けたら行きますね」
「……来る気ねーな」

決してそんなことはない。だけどクラスの応援もあるし、そんな上級生を見に行っている時間を作れないだけだ。そう、仕方がない。まあ鳴先輩に関しては絶対に見に行くけれど。

「かのえちゃんは何出るの?」
「私はソフト、」
「ソフト?運動苦手なのに?」
「……の、補欠です」
「あー運動苦手って感じ」

当然、私がソフトボールなんてできるはずもない。それがすぐに察せられたのか、先輩たちは納得したように頷いた。そこまですぐに肯定されると、なんだか悔しいな。


「そういや、糸ヶ丘って運動する時もその顔なのか」
「その顔とは」
「あー確かに。メイクバッチリじゃん」

指摘されて、ちょっとショックを受ける。確かにいつもゴリゴリのメイクだから男からみてもすぐにスッピンじゃないと分かるけれど、濃いのを指摘されたら、ちょっと、気まずい。


「体育くらいならそのままです」
「へードロドロになんねーの?」
「ちゃんとしたら大丈夫です」
「かのえちゃん、メイク好きなんだね」

鳴先輩に言われて、首をかしげてしまう。メイク、好きなのかな。

「好きこそ物の上手なれっていうじゃん」
「ですが……メイクくらいなら他の子もしていますし」
「応援のあとぼろぼろの子とかいるよ」
「鳴お前なあ、球場まで来てもらってそりゃねーだろ」


そりゃあ夏の高校野球を現地で見て入れば、メイクなんてあったもんじゃないと思う。私だって、メイクはおろか、体調も崩す。

「俺もメイク濃いのが好きってわけじゃないけど、」

鳴先輩が、突然私を落とす。そりゃあそうだ、私のメイクは女子には大評判であるが、男子からはケバいだの何だのよく言われる。自己満足だからと気にしていなかったが、鳴先輩の不愉快になるのならばやめたほうがいいかな。そう思ったのだが。

「でも好きでやっているならいいんじゃない?」

別に、褒められたわけでもない。濃いのが好きじゃないとも言われた。だけど、鳴先輩に肯定してもらえただけでも嬉しい。私が私のためにやっていることだけど、鳴先輩の不愉快になっていないっていうだけでも、嬉しく鳴れた。

「……っこれからもメイク頑張ります!」
「これから暑くなるから更に大変だねー」
「ウォータープルーフ使います!」
「体育はどうすんの?球技大会もあるじゃん」
「水泳はサボって、球技大会は補欠ですし!」
「補欠でも出るかもしんねーだろ」


つっこみを入れてくる神谷先輩に向かって、むむと唇を尖らせてしまったのだが、「努力の方向おかしー!」と笑う鳴先輩の笑顔を見れたのでもう、なんでもよくなった。

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