小説 | ナノ


▼ 02

昼休み、中庭でランチを取ろうとしていたら、なんとラッキー。成宮先輩がいた。友だちに頼んでさり気なく座る場所を逆側と変わってもらい、彼が正面に見えるように座る。

ああ、やっぱりかっこいい。あんなにも大きいお弁当をぺろりと食べられちゃうのがすごい。多田野も同じの食べていたけど、全然違って見える。あ、でももう食べ終わっているみたい。やっぱり食べるのはやいなあ。立ち上がった。歩いている姿もよい。こっちに来る。校舎に戻っちゃうのかなあ。残念。……あれ、本当にこっちに、


「ねえ」

「ねえってば」
「……私ですか!?」

話しかけられたと認識できず、フリーズしてしまった。え、なんで、わたし。

「す、すみません失礼を、」
「名前、なんてーの」
「糸ヶ丘と申します」
「名前は?」
「? 糸ヶ丘、かのえでございます……?」

名字を名乗ったのに、再度名前を聞かれる。フルネームが必要だったのかと思い、また名乗ればキラキラとした笑顔を魅せてくれた。

「かのえちゃんね」
「えっ」
「よく樹といるなーって思って覚えてたんだ」
「イツキ……?」
「多田野」
「……ああ、」
「ぷぷっ樹ってば女子に名前覚えられてねーの!」

成宮先輩以外の男子にあまり興味がなかったのだが、冷静に考えれば多田野は彼の後輩だ。自分の後輩が蔑ろにされてはいかがなものか……?と思ったけど、問題なかった。よかった、多田野が蔑ろにされるキャラで。

「な、成宮先輩はわたくしめに何かありましたか」
「俺は鳴っていうの」

はい、存じ上げております。返すべき反応が分からずぱちぱちと瞬きしていると、「鳴っていうの!」と、ちょっと強めに言い直しされる。

「……鳴先輩は、」
「うん!何?」
「えっ(先輩から話しかけてきたのでは!?)」
「名前呼んだんだから用事作ってよ」
「え、あーっと、えっと、」

分からないけれど、いつの間にか私が質問する立場になってしまった。まったくもってどういう展開なのか分からない。一緒にいた友達も、どういう展開だと手を止めてこちらを見ている。だ、だれか助けてくれ。こんな展開、想定などしていなかった。

「えっと、」
「うん」
「成宮先輩は、」
「えー聞こえなーい」
「め、めいせんぱいは!」
「聞こえたー!……で?」


「す、すきなたべものは、なんですか……!」


アホだ。自分で言っておいて、なんてアホな質問しか出てこないんだ。成宮先輩、もとい鳴先輩は、きょとんとして目をぱちぱちさせている。ああ、そんな表情も可愛くて素敵だ。


「んー……からあげかな」
「からあげ!美味しいですよね!」
「うん、作ってきてもらうなら冷めてもサックサクだと嬉しい」
「お弁当に入っているとそうですよね!」
「うん、差し入れでもらう時とかね」

鳴先輩と!からあげトークを!思いもよらない幸運をかみしめていたら、悲しいことに予鈴がなってしまった。鳴先輩は教室移動らしく、向こうで鳴先輩と一緒にいた神谷先輩がこちらにきて声をかけてきた。

「じゃあ、またね」
「……っはい!」

またね。またねだって。信じられない。きっと鳴先輩は単なる口癖なんだろうけど、またねだって!私は差し入れをしたり話しかけたりする勇気はないのでまたの機会は来ないけど、この会話を胸に、あと一カ月は幸せでいられる気がした。いや、幸せでいる。

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