小説 | ナノ


▼ 01


「あ、鳴さん」
「えっどこ?」

後ろの席の多田野の呟きに大きく反応し、すぐにグラウンドを見下ろす。今が自習でよかった。そして、窓際席をゲットできてよかった。


「……成宮先輩、今日もかっこいいなあ」
「糸ヶ丘さんってめずらしいよね」
「どこが?」
「鳴さんのこと、すごく好きだから」
「そんな人他にもいるじゃない」

成宮先輩は今からサッカーのようだ。本当なら投げている様子を見たかったけれど、サッカーをしている姿もレアでいい。

「普段の鳴さんまで好きな人、聞かないから」
「えーなんで!?あんなにもかっこよくて素敵な人、みんな好きになるよ!」
「うーん……?」
「なぜ首をかしげる」

私の意見に同意しかねるのか、多田野は曖昧な返事をしてきた。何と失礼な。いつも羨ましいくらいの距離感で成宮先輩のことを見ているっていうのに、贅沢な男だ。

なんて思いながらも成宮先輩のことを見ていると、ふいにこちらを向いた。


「あ、こっちみた」
「手振ってる……!可愛い……!」
多田野が見えたのか、成宮先輩はぶんぶんと大きく手を振る。普通にサッカーの対戦も始まっているっていうのに、堂々とした佇まいだ。

「糸ヶ丘さん、なんで隠れるの」
「成宮先輩の視界に入らないように」
「なんで?」
「成宮先輩の視界に入るなんて、おこがましいから」
「……」

カーテンをかけて、自分の姿を隠す。大っぴらに覗き見していることも気付かれたくないし、何より成宮先輩の視界に入りたくない。でも、成宮先輩の姿は見たい。多田野がもうちょっと離れた席だったらよかったのに。

「せっかくバッチリ顔作ってきているのに」
「これは『成宮先輩のファンってあんなレベルなんだ』って思われたくないからしてるの」
「……よく分からない熱意だなあ」
「別に分からなくてもいいの」


結局のところ、自己満足だ。それでも、私が成宮先輩、成宮先輩と騒ぐ以上、こんな女がと思われたくない。成宮先輩の評価を下げるようなことはしたくない。

ただただ、成宮先輩の姿を見ていたい。ただ、それだけだ。


***


「あーあ、見えなくなっちゃった」
「授業中だっつってんだろ、樹の邪魔するなよ」
「なんで樹に手ぇ振らなきゃいけないのさ」
「あん?他にいたか?」
「いた!すっげー可愛い子!」
「あー……化粧濃い子か」

カルロの説明で、同じ子を想像しているのが分かる。いつも化粧バッチリで、髪の毛ぐるんぐるんで、そんでもって、いつも2階から野球部を見ている子。

「全然声かけてもくれないんだよねー」
「よくそれでファンだって認識したな」
「でも絶対俺のこと好きだし」
「自意識過剰だろ」
「違うって!だってずーっと俺のこと見てるし!」
「お前が見ているだけじゃねーの」

ほら行くぞ。カルロはさっさと授業に戻っていく。ちぇ、今日こそは反応してほしかったんだけどなー。

もう一度2階を見上げて、隠れた姿をみようとする。放課後は見えるかな。

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