小説 | ナノ


▼ 中間試験前の小湊くん

「小湊くんよ」
「どうしたの糸ヶ丘さん」
「先ほどの授業を聞いていましたか」

振り向いてくれた小湊くんは、小さくため息をつきながら私の教科書をめくる。

「……19ページと、あとは20ページの枠のところ」
「お?」
「どこが試験範囲外か、聞き逃したんでしょ」
「なぜそれを!?」
「先生が言った直後に糸ヶ丘さんの諦めた声が聞こえてきたから」

お恥ずかしい。しかし、親切に感謝して指定された箇所に付箋でメモをする。その様子を見守ってくれる小湊くんの前髪が、はらりと耳から落ちた。

「そういえば、小湊くんって前髪長かったの?」
「そうだね」
「長いのも見たかったなー」
「へえ」
「見たかったなー……?」
「ふぅん」

繰り返すも、小湊くんは私のノートをぺらぺらめくるだけで何もしない。ケータイの画像データから去年の写真を探したりなんて、する気配はない。

「小湊くんよ」
「うん?」
「去年の写真見せてくれるとかないんですか」
「ないね」

バッサリと切り捨てられてしまう。悔しがるも、小湊くんは折れてくれないだろう。

「逆に聞くけど、糸ヶ丘さんは見せられるの」
「? 去年の写真なら全然いいよ」
「じゃなくて、ロングヘアの姿」
「それは無理だね」
「じゃあオアイコで」
「いやいや、私はずっと短いから」

昔からショートヘアが好きな私は、ロング時代なんて全然ない。写真も当然ない。小湊くんとは状況が違う。

「なら今から伸ばそうよ」
「小湊くん、今の私の長さ分かってる?」
「短いね」
「そうなの今年伸ばしてもミディアムにしかならないよ」
「なら来年も伸ばしてよ」
「え」

「髪長い糸ヶ丘さん、見てみたいし」

ノートをぱらぱらめくりながら、さらりとそんなことを告げる小湊くん。

(誰だ、彼が照れ屋だなんて言っていたのは……!)

心臓を落ち着かせながら、どう返事しようか考える。黙った私を不審に思ったのか、ノートへ向かっていた視線がこちらへ来た。

「糸ヶ丘さん?」
「え、や、あの、」
「どうしたの、黙って」
「……小湊くんが恥ずかしいこと言うからでしょ」
「……あ、」

ようやく気付いたのか、ぼふんと彼の顔も赤くなる。

「何無意識だったの!?あんなセリフ言っておいて!?」
「ご、ごめん、ただ会話の流れで」
「流れでたぶらかさないでよー!」
「べっ別に糸ヶ丘さんをたぶらかすつもりなんて全く、」
「それはそれで失礼じゃない!?」


なんて二人で騒いでいたら、「どうしたの」と東条くんに聞かれようやくドタバタはおさまった。しかし、なんとなく伸ばし始めた私をみて、定期的に小湊くんが赤面してしまうようになるなんて、この時は考えてもみなかった。

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