小説 | ナノ


▼ 17

キーンコーン カーンコーン

「起立、礼」

日直の合図でばらばらと頭を下げたクラスメイトは、それぞれ荷物を持って教室を後にする。

「瀬戸くん」
「あ、糸ヶ丘」
「……少し喋ろう?」

いつもなら最初に廊下を踏む彼を呼び止める。向こうも声をかけられるのは予想がついていたらしい。浅田くんhへ先行くよう伝えて、下駄箱とは逆方向へ歩き始めた。



「えーっと、つまり」
「糸ヶ丘洋一。それが十年前の名前」
「……本当に兄妹だったのか」

理科準備室の前の廊下で、荷物を持ったまま喋り始める。お互い部活もあるから時間がない。端的に説明しないと。

「ご両親は」
「二人とも今もたまに会っているよ、実家の都合で離婚しただけ」

こじれた関係じゃないことは分かってほしい。その意図を持って言ったのだけれど、昼の様子をみてはそうも思えなかったようだ。

「で、倉持先輩とは?」
「青道で十年ぶりの再会」
「前に自販機で会った時は、普通に話していなかったか?」
「……私もそう思っていたんだけどなあ」

その後、フォームを見てもらうという理由で喋ったことも伝える。見てしまった場面が場面なだけあって、瀬戸くんも晴れた表情にはならない。

「……離れて暮らすようになる日、私を叩いてきてさ」
「喧嘩か?」
「分かんない、なんか怒ってた」

相槌の正解も分からなくて、瀬戸くんは困っている。私だってどう返されたいのか、自分でも分からない。

「そういうことで、ちょっと喧嘩中なの」
「……みんなには、黙っておいた方がいいよな」
「うん、お願い」

別にバレても問題ないと思う。だけど、やっぱり面白がってくる人はいるだろう。それが校内だけだったらまだいい。兄はあと一年もしない内に卒業するし。だけど。

(甲子園行ったりしたら、あることないこと書かれるかも)

それだけは避けたかった。多分兄も、同じように考えているんだと思う。揶揄われたりするの、苦手だし。

「他には誰も知らないのか」
「向こうが言ってなかったら」
「御幸先輩も?」
「さあ? 私からは言っていないけど」

あっちが言わないって判断したなら、余計言わない方がいいと思う。あの二人がどういう関係なのかよく分かっていないし。

「御幸先輩には言っておいた方がいいんじゃね?」
「え、なんで」
「なんでって……ほら、倉持先輩とも仲良いし」
「まだ言ってないなら、それなりに理由があるんでしょ?」

なら余計、私の口から言うべきではない。それを伝えれば、少し唸りながらも納得してくれたようだ。

「とりあえず、瀬戸くんは何も気にしなくて大丈夫」
「ま、知らない振りしていいなら助かるけど」
「そうそう。知らない顔しておいていいよ」

説明もして、口止めもして。これでようやくひと段落だ。

(あとは何に怒っているか聞くだけ)

謝るかどうかは、理由を聞いてから。大きな問題は残っているけれど、おおよそ解決できたと思えた私は、スッキリした気持ちで部活へと向かった。


まさかそのすぐ後に野球部で、ひと悶着起こるなんて全く知らずに。

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