小説 | ナノ


▼ ドレスを選ぶ(ヒロイン)

「だーかーらー……お色直しなんて要らないって」
「いーやーでーす!絶対要ります!」

結婚式の準備は、大概どこかで喧嘩になる。そう聞いてはいたけれど、俺と彼女は大丈夫だと思っていた。だって、俺がやりたいことだったらすぐ頷いてくれるし。

「その分の費用は私が払いますから!」
「俺が嫌だって言ってんの。つーか金も俺が出す」
「イヤです絶対やります!せめて2回!」
「なんで増えてんだよ」

並ぶドレスの前で終わらない言い合いを続ける俺たちに、プランナーのスタッフも苦笑いをし始める。とりあえず、一旦衣装選びはストップだ。そう思ったのだけれど、彼女は引こうとしない。

「とりあえず、一旦別の打ち合わせに、」
「……そんなことしても、私は誤魔化されませんからね」
「ったく、なんでそこまで着る物にこだわるんだよ」

面倒くさくなってソファに腰かけたけれど、彼女は正面に立ってずいと顔を近づけてくる。こういう時に「どっちも”着たい”」ってわがまま言う花嫁は割と居る気はする。だけど、俺の彼女はどうも違う。


「だって!タキシードも和装も”見たい”んですもん!」


そう、こいつは俺のお色直しを絶対に入れろと騒いでいるわけだ。

「だから、そっちに合わせてネクタイは替えるって」
「なんで私基準になるんですか?鳴先輩の式ですよね?」
「俺達二人の式だっての!」

まさかこんな理由で、意見が食い違うとは思ってもみなかった。

彼女が1年生、俺が2年生の時に出会った時から随分と月日が経った。昔は俺と話すのもいちいち顔を真っ赤にしていた彼女だけど、数年かかってようやく普通に喋れるようにまで成長した。

だけど、俺のファンであることは結局今も変わらない様子だ。

「やだぁ……鳴先輩のタキシードも和装もカラースーツもモーニングコートも見たい……!」
「また増えた」

ヒールで疲れていそうな彼女の腕を引っ張り、隣に座らせる。よっぽど納得できないのか、顔を伏せって足をジタバタさせている。


「……分かったよ」
「っ!?」
「ただし1回だけ、合計2着なら」
「本当ですか……?」

おそるおそる顔をあげる。俺が無言で頷けば、ぱぁっと表情を明るくさせる。ああもう、そういうとこ本当かわいいんだから。

「じゃあどうしようかな〜!先輩着たいのありますか?」
「別に……あ、」

何でもいい。そう思ったけど、ふと思いつく。

「……白いタキシード」
「白タキシード!絶対かっこいいですよ〜!」

多分、俺の返答がなんであったとしてもこの反応だった気はする。だけど、別に俺が着たいわけじゃない。単純なことだ。


「俺、かのえの真っ白いウェディングドレス姿が見たい」


そう、白いドレスをまとった彼女を見たい。ただそれだけだ。俺が着たい服はないけど、そんな彼女の隣に立つのなら、白いタキシードを着るべきだろう。ま、何でも似合っちゃうからどれでもいいんだけど。

「なっ、そ、そんな理由じゃなくってですね!?」
「そんなって、それが一番じゃん」
「なななん、なんの!?」
「結婚式挙げる理由」

ぶっちゃけ挙げなくてもいいって思っていたんだけど、向こうの両親が当然あげるものって空気だったから流れで決めた。正直いうと休み潰れるしデートする時間もなくなるから面倒だなって気持ちはあった。それでも、俺が挙げたいって思ったのがそれだ。

こいつの、綺麗な姿がみたい。

「……って、聞いてる?」
「……きいてます」

隣をみれば、さっき放したはずの手が、また彼女の顔を覆っている。だけどさっきとは違って、真っ赤な耳が丸見えだ。

(ははーん)

先ほど彼女がやったように、今度は俺が正面に立つ。気配に気付いたのか、指の隙間からこちらをチラリと見上げてきた。

その隙を狙って、両腕を掴んで無理やり手をあげさせた。


「なっ!?」
「ぷぷっ顔真っ赤」
「や、やだやだ!離してくださいいい!!」
「なーんだ、やっぱり俺に褒められて嬉しいんじゃん?」

ドレス姿を見たいって言われても、大した反応はないかと思っていた。だって俺の衣装の話ばっかりしているし。

だけどどうだ、まだ何一つ衣装選びは進んでいないのに、こんなにも照れてしまうなんて。

「ね、今から先にドレスから選ぼうよ」
「っ!?鳴先輩のタキシードから選ぶべきですよね!?」
「だって俺は何着ても似合うし」
「くっ!それは否定できませんが……!」
「(……ほんと、俺のこと大好きだなー)」

ちょろすぎる彼女に呆れながら、腕を離して解放する。俺が勝手にドレスの元へ歩いていけば、ちょこちょこと後ろからついてきた。

「着たいのある?」
「スタイルをカバーできれば何でも!」
「じゃ、俺の選んだやつにして」

首を傾げて、パチパチと瞬きしながら見上げてくる。こういう女の子っぽい仕草が、やっぱりよく似合う。

「鳴先輩、そういうの見るの得意でしたっけ」
「骨格云々は分かんないけどさ、」

でも、自信のあることは1つあった。


「かのえの可愛いとこ、一番分かっているのは俺だから」


だから、こいつが一番可愛く見えるドレスを選ぶ。そう伝えたら、まーた真っ赤に待って顔を伏せってしまう彼女に、ようやく俺は大笑いした。


結婚式の準備って、案外楽しいかも。

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -