小説 | ナノ


▼ 28

朝、教室に向かっていると、なんだか騒がしい。廊下に他のクラスのやつも集まっている。

「カールロ!」
「お、鳴じゃん」
「なんで俺らのクラス覗いてんの?」
「糸ヶ丘が髪バッサリ切ったって噂になっててさ」

「……は?」

それを聞いた俺は、急いで教室に入る。いつも数人で輪を作っている女子たちが、糸ヶ丘の机の周りに集まっていた。

「かのえちゃん可愛い〜!」
「ありがと」
「思い切っていったね!」
「うん」

失恋でもしたのかってくらいに、分かりやすく、バッサリと。背中の真ん中くらいまであった糸ヶ丘の髪は、三つ編みなんてできないくらい、短くなっていた。

予鈴のチャイムが鳴り、ようやく糸ヶ丘の周りから人がいなくなる。俺もようやく、糸ヶ丘の後ろに座った。

「成宮だ、おはよう」
「お……おはよ」

満足そうにしている糸ヶ丘を見て、罪悪感がヤバかった。どうしよう、どうしよう。今更「雅さん別にショートカット好きってわけじゃない」なんて言えるわけがない。

「髪……切ったんだ?」
「うん」
「似合っているね、めっちゃいいと思う」
「そう?ありがと」
「ショート似合うって流石顔いいだけあるよね、うん」
「やけに褒めてくれるわね」
「いや〜それだけ似合っているってことだから!ね!」

「……雅も、褒めてくれるかな」


俺の良心に、その言葉が刺さる。

バレたら不味い。でも、絶対いつかバレる気がする。こっそり雅さんに口裏合わせを頼もうかな。だけど、俺の嘘がきっかけで糸ヶ丘の髪がなくなったってことに、スッゲー怒られそうな気がする。

それなら、さっさと言ってしまった方がいい気がする。そうだな。そうしよう。




昼休み、ようやく決意した俺は、昼飯を食べ終わった糸ヶ丘に話しかける。

「糸ヶ丘、ちょっといい?」

首を傾げながら、座ったままこちらを見上げる。ヤバイ、緊張してきた。

「……あのさあ、」
「どうしたの」
「雅さんのタイプとか、俺知らないんだよね」
「何よ突然」
「その、だからさ、


雅さん、別にショートの子が好きなんて言っていたことないっていうか、」


なんというか。ごにょごにょと濁しながら、やっと伝える。糸ヶ丘はこっちをまっすぐ見たまま、固まってしまった。流石に殴って来そうだと思って自分の頭を守る準備をした。が。


糸ヶ丘の丸い瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれた。

「えっ、ちょ、なんで泣く!?」

ヤバイ。こんな展開は想像していなかった。俺の声が大きかったからか、みんな糸ヶ丘をみていたからか、すぐに教室中の注目が俺たちに集まる。

「ちょっと成宮!なんでかのえちゃん泣かせてるの!?」
「いやまさか泣くとは、」

「お前なに言ったんだよ!女子泣かせてんじゃねえって!」
「だってまさか本当に髪切るなんておもわなかったんだもん!!」

その言葉を聞いて、俺が何か言ったせいで糸ヶ丘がバッサリ髪を切ったと気付かれた。

「ちょっと待て、もしかして成宮のせいで糸ヶ丘さんは……?」
「で、でも!勘違いしたのは糸ヶ丘だし!俺悪くないし!」

雅さんは短いのが好きとしか言っていない。別に、それが女子の髪型の好みとか、そこまでは言っていない。本当は自分が短い髪にしているのが楽って言っていただけなのに、女子の好みだと思い込んだのは糸ヶ丘だ。俺は悪くない。

なんて言い訳をし続けても、周りからの非難は飛び続けるし、糸ヶ丘の大きな瞳からぼろぼろこぼれ落ちる涙は止まらない。

「……その、糸ヶ丘……?」

他の女子たちに囲われて、抱きしめられたり頭を撫でられたりしている糸ヶ丘に声をかける。が、糸ヶ丘はこちらを見ない。座ったまま、ぼろぼろと涙をこぼすだけ。代わりに女子が全員で俺を睨んでくる。

「……どうしよう」

色んな人から頭も背中も撫でてもらって、ようやく糸ヶ丘が口を開いてくれた。


「雅に嫌われたら、どうしよう」


無表情で、ぼろぼろぼろぼろと、涙をこぼし続ける。どうしたらいいのか分からない。だって、女子泣かせるなんて小学生以来だし。それに、糸ヶ丘が泣くなんて、考えたこともなかった。

ーーガラッ

その時、この空気をぶち壊すように、乱暴に教室後ろの扉があいた。

「……かのえいるか」

糸ヶ丘のことを、下の名前で呼ぶ男なんてひとりしかない。

「ま、雅さん!」
「めずらしく神谷から連絡が入ったんだが……なんかあったのか」
「いやその!えーっと、何と言うか、!そのですね!」
「落ち着け。つーかこのクラスは女子固まり過ぎじゃ……、」

俺の隣に集まっていた女子を見て、鬱陶しそうにした雅さんだったけど、その中心にいるのが糸ヶ丘だと気付いて言葉が止まる。糸ヶ丘がいたからっていうか、髪がバッサリ消えていたから。

「……髪、切ったのか」
「、ま、雅……!」

今まで無表情で泣いていた糸ヶ丘が、途端、溢れたように泣きじゃくる。女子たちの輪がすっと緩まって、糸ヶ丘を逃がすようにするけれど、糸ヶ丘は先ほどまで抱きしめてくれていた委員長にすがりつく。

が、雅さんが糸ヶ丘の首根っこを掴んだ。

「なんで泣いてんだ」
「だ、だっでぇ……!」
「……とりあえず落ち着け」
「(……ぐずっ)」
「あー……分かった分かった……おい鳴」
「な、何!?」

「こいつ、借りていく」


言うが早いが、雅さんは糸ヶ丘を担いだ。彼女を俵担ぎするなんて、正直どうかと思う。

「ま、雅!降ろして!」
「暴れんじゃねえよ、パンツ見えるぞ」
「見えてもいいの!?」
「よくねえから暴れんな」

糸ヶ丘も暴れていたけど、嗜められて大人しくなった。そのまま雅さんと糸ヶ丘は、どこかへ消えて行った。

「……台風去ったって感じ」

ようやく静かになった教室で、俺もようやく座る。だけど。

「なーるみーやくーん……?」
「げっ」

「なんでかのえちゃんがああなったのか、ちゃんと説明してもらうわよ」

クラスメイトの女子たちに、次は俺が囲まれることとなる。

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