小説 | ナノ


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「〜♪」

あからさまに浮かれている糸ヶ丘。手にはバカデカイ保冷バッグ。

「今日は雅さんとランチ?」
「うん」
「……弁当デカすぎない?」

俺が普段食べている寮弁当を並べてみたら、更にひと回り大きい。糸ヶ丘のは別にあるから、これは全部雅さんの分だと思う。どれだけ食わせるんだ。

「俺きちんと量分かるような写真送っていたよね?」
「うん。でも成宮であの量食べれちゃうのかーって思ったら」
「失礼じゃない!?」

確かに俺より雅さんの方が食べるの早いけど、同じ量を俺だって食べているわけだ。食の細かった勝之だって同じ量。でも確かに、外で食べる時は雅さんすっげー食っているから、この量でも食べちゃう気はする。糸ヶ丘の手作りだし。

「俺の2週間の苦労〜……」
「ああでも品目とか栄養バランスは参考にしたの」
「へー、見たい」
「そういえば写真撮り忘れた」

雅に食べてもらう前に撮るから、そしたら送る。一応恩義はあるらしい。昼休みが終わる直前で、「感謝」の文しか送ってこなかった糸ヶ丘から、めずらしく画像が送られてきた。

「あ、言うの忘れてた」

その写真をみて、あることに気付く。ちょっと心配したけれど、戻ってきた糸ヶ丘が「ちゃんと全部食べてくれたわよ」と言っていたので、俺はひとつの茶化し材料を手に入れてしまった。

***


「あっれ〜?雅さんドレッシングじゃないの〜?」

絶対言ってやろうと思っていたことを言えば、雅さんの方も「絶対言われる」って思っていたみたいだ。俺の呼びかけを無視して、塩だけをかけたサラダを食べ進める。

「お昼は胡麻ドレだったじゃん?」
「……」
「胡麻ドレはくどいとか、おっさんみたいな事言っていたくせにさ〜?」
「……うっせえ」

糸ヶ丘に頼まれて、毎日毎食、寮で出してもらうご飯を撮って送っていた。当然雅さんも同じ物を食べている。だけど、サラダにかけるものは個人の自由って言い忘れてた。

(俺がいつも胡麻ドレだから、雅さんも同じだと思ったんだろうな)

糸ヶ丘が今日、雅さんのために作ってきたサラダには、胡麻ドレッシングがかかっていた。そう、俺が毎日胡麻ドレッシングのかかったサラダの写真を送っていたから、「寮のサラダは胡麻ドレッシング」だと勘違いしたっぽい。

「今度からは塩がいいって言った?」
「言わねえよ」
「ちゃんと言わないと!なんなら俺が言ってあげようか?」
「本気でやめろ」

雅さんは元々薄味が好きだから、ソースとかもあんまりかけない。胡麻ドレだと濃いらしい。美味しいのにさ。

「でも、将来のこと考えたらちゃんと言った方がいいんじゃない?」
「別に食えねえことねえ」
「……」
「なんだよ」

茶化したつもりで言ったのに、普通に受け入れられて、ちょっと戸惑う。雅さんは気付いていないっぽい。


「いやー、なんというか、その、ね?」
「はっきり言え」

「糸ヶ丘と結婚するつもりなんだなーって、」

思って、びっくりした。そう伝えれば、雅さんも動揺するかと思っていた。だけど、案外素直に受け入れる。


「別れるつもりで付き合うわけねえだろ」


さも当然のように、そう口にする。塩だけのかかった、素材そのままって感じのサラダを黙々と食べ進めている様子はおっさんっぽいけど、さらっと言ってのけるのは、正直かっこいいと思ってしまった。ちょっとだけね。

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