小説 | ナノ


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「成宮、一生のお願いがあるんだけど」
「ん?」

昼休み、どっかに行っていた糸ヶ丘が(どうせ雅さんと食べていたんだろうけど)帰ってきて早々俺のところへ来る。

「で、今日は?」
「……雅の好みを知りたいです」
「は? 今更?」
「その、私服の傾向とか」
「……あ!」

そういえば、雅さんに水族館デートをたきつけたんだった。どうやら上手くいったみたいで、糸ヶ丘はもじもじと手を動かしながら、でも表情は相変わらずの糸ヶ丘で、スンとしている。顔だけみても分かんないんだよなあ、コイツ。

「つっても、雅さんの女の好みとか知らないし」
「雅の私服が分かれば、それに合わせるから」

合わせるって何だろう。ペアルックとかするつもりなのかな。それは引く。

「雅さんがスーツ着てきたらどうする?」
「私もドレスコードで行く」
「水族館にドレス着て行くなよ」
「えっ」
「ん?」
「なんで知ってんの」
「あ」

しまった、そういえば糸ヶ丘が田中に水族館のチケット譲っていたのは、俺がこっそり田中から聞いて分かったことなのに。ストーカーチックなことしていたのがバレて、ちょっと焦る。

「雅は……言わないわよね」
「ほ、ほら!糸ヶ丘って特別賞で貰っていたじゃん?」
「なんで生徒会からのシークレットプレゼントをあんたが把握しているの」
「そりゃ俺だし!ね!」
「……ま、バレて困ることでもないし」

あっっっぶない。危うくバレるところだった。なんとか誤魔化せた俺は、墓穴を掘る前に話を元に戻す。別に雅さんの私服とか興味ねーけど。

「そ、それよりも私服じゃないの?」
「そうだった」

「つっても、雅さんって服そんなに持っていないからなー」
「休みないから?」
「ううん、ゴリラだからサイズないんだってさ」
「成宮と違って身長高いもんね」
「……体重も重いからね」

「でもそうなってくると、ラフな服装でくるかしら」
「えっ無視?」

なぜか俺を下げる糸ヶ丘に腹が立って悪口まがいのことを言ったのに、普通にスルーされる。あとゴリラっていうのも否定されない。ベタ惚れな彼女であっても、雅さんがゴリラなことは否定できないのか。ちょっとウケる。

「まーでも多分、そんなオシャレな服装できないと思うよ」
「うーん……じゃあ私もシンプルにしようかな」

多分、雅さんに合わせるならそれが一番だと思う。

でも、それじゃ俺がつまんない。

「でも、雅さんと初めての外デートでしょ?」
「そ、そうですけど?」
「なら精一杯オシャレしてあげたら?」
「精一杯のオシャレ……」

そういってみたら、糸ヶ丘は渋い顔をする。

「どしたの」
「……私、あんまり私服持ってない」
「えっなんで」
「だって同じ服ばっかり着ちゃうから」

そういえば、野球観戦はガッツリ紫外線対策だったし、一人で出かける時も地味な服装だった。友達少なそうだし、休みの日も雅さんのストーカーしているか勉強しているかって言っていたな。

「……糸ヶ丘が頭下げるなら、こっそりサーチするけど」
「うーん……やっぱりいいや」
「いいの?」
「だって雅の好きな服装が、私に似合わなかったら意味ないし」
「それもそうか」
「ま、顔いいから大体着こなせちゃうんだけど」
「ほざけ」

結局糸ヶ丘がどんな服装で行ったのかは教えてもらえなかった。つーかそもそもいつ行くのかすら教えてもらえなかったし。どうせ年末くらいじゃないと予定ないだろうな。年明けにまた聞いてやろうっと。

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