小説 | ナノ


▼ 18

文化祭当日、俺たちのクラスは大いに盛り上がった。

主に、糸ヶ丘のおかげで。


「お客さん男ばっかじゃん!」
「成宮が出たら女の子いっぱいだったのにな〜残念だ」
「だから俺は言ったよね!?」

ベランダから顔を伸ばして、俺たちの教室を覗き見る。裏方担当の男どもは、隣の空き教室で必死にデザートだのドリンクだの作っていた。俺はパフェ担当。器用だからね。

「いや、でもアレは……予想外だったよなあ」

思わず呟いた俺の言葉に、クラスメイトがうんうんと首を縦に動かした。まさか糸ヶ丘が、あんなモノを隠し持っていたなんて。


「糸ヶ丘さんってあんなスタイル良かったんだな」
「口悪いけどね」
「頭もよくて顔もよくて、悪いところないよな〜」
「口は悪いよね」

「あーあ、原田先輩羨ましいぜ」


いやほんと、どうしよう。

クラスメイトと会話しながら、俺は本気で焦っていた。絶対、雅さんに怒られる。だってあからさまに糸ヶ丘目当てで来ているヤツいるし。俺たちのクラスの女子って結構レベル高いって思うけど、糸ヶ丘のスタイルは反則だ。

(あんな胸でけーとか、全然知らなかった)

「雅さん来る前に逃げたい……」
「原田先輩来るんだ?いつ?」
「んー……14時に自分のクラス抜けるって行っていたから、」

そういって時計を見る。14時5分。


「いつ来てもおかしくないんだよねー……」

ご愁傷様。そういって男子共が笑う。こいつら絶対道ずれにしてやる。そう決心しながら、俺は黙々とパフェを作っていた。


「ねえ男子ちょっと」

のれんから顔を出したのは女子の委員長。いちいち扉を開け閉めするのが面倒だから、この準備教室はのれんをかけた。「立ち入り禁止」って書いたけど俺目当ての女子とかがたまに覗いちゃうから、俺は一番奥でパフェを作っている。

「どうしたの委員長、パフェの注文?」
「ううん、なんかちょっとしつこいお客さん増えてきて……」

今から職員室に行って、先生に注意を頼むらしい。外部からの来場者がいるとこういうの困る。


「先生来るまでに何かあると怖いから、一応見ててくれない?」
「オッケー、ベランダの方から見ておく」
「成宮くんありがとう」

そういって、委員長は小走りで出て行った。頼まれたから仕方ないってことで、俺は薄い手袋を外してパフェ作りを他のやつに押し付ける。ベランダに出て、俺たちの教室を見守ることにした。

(……糸ヶ丘は結構バッサリ言っているな)

一番絡まれそうだと思っていた糸ヶ丘は、絡まれてはいるけど淡々と接客を続けていた。つーか笑顔も一切なくてウケる。他の女子はアドレス聞かれたりしたのをやんわり誤魔化して断っているのに、糸ヶ丘は普通に拒否っていた。

(この調子なら、俺たちが出て行かなくても大丈夫かなー……)

うちのクラスの女子は上手にやり取りをしていた。下手に男子が出ていくタイミングじゃないっぽい。今のところ、ヤベーこと言われている感じもない。

なんて思っていたタイミング。

「お姉さんって、彼氏いるの〜?」

入ってきたばかりの大学生っぽい男二人が、糸ヶ丘に話しかける。糸ヶ丘は無視して注文を聞いていた。

「ご注文は」
「お姉さんをテイクアウトで」
「注文しないのなら退店を、」
「じゃあお姉さんも一緒に行こうよ〜!」
「……ちょっと、触らないで」

マズイ。男の一人が糸ヶ丘の手を掴む。もう一人の男も立ち上がって、腰に手を回した。クラスの女子がざわついている。

「おい成宮!」
「先生呼んできて!!はやく!!」

ベランダから走って教室を通り抜ける。慌てた俺をみてパフェ作っていた田中が声をかけてきた。委員長が職員室まで担任を呼びに行っているけど、誰でもいいからすぐ近くの先生を呼んできてほしい。

「きゃあ!!」

のれんを叩いて外に出て、急いで隣の教室へ走る。糸ヶ丘の大きな悲鳴と、他の女子たちの甲高い声が聞こえた。俺はブチ切れそうになりながら、廊下に飛び出た。

締め切ってある扉を乱暴に開けて俺たちの教室へ入れば――



「おい!!糸ヶ丘に触んじゃねえ……よ……?」



そこに見えたのは、呆然としている大学生っぽい男と、太い腕に頭を掴まれているもう一人の大学生っぽい男。

それと、雅さんの腕の中で固まっている糸ヶ丘。

「……雅さん?」

片手で男の頭を掴んでいた雅さんが、こちらを振り返る。


「なんだ鳴、悪いか」
「いや、雅さんならいいけど」

「先生呼んできたよー!」

委員長の声が聞こえる。糸ヶ丘に声をかけていた大学生2人は小さくなって、おどおどしていた。けっ、しっかり怒られろ。


そして、ナンパされていた糸ヶ丘はといえば――


「まま、ま、雅……!!」
「なんだ」
「は、離していただけると!」
「悪ぃ、苦しかったか」

そういって、すんなり糸ヶ丘を解放する。さっきの悲鳴は男に何かされたわけじゃなくて、雅さんに抱きしめられたからか。いまだ真っ赤になっている糸ヶ丘をみてそう思った。クラスの女子たちが今もキャーキャー沸いている様子を見るに、さっき金切り声をあげていたのも雅さんが現れたからっぽい。なんもされていないならよかったけど。


「雅さん遅い!!」
「悪かったな」

俺の方が遅かったってのに、それを指摘せずに謝ってくる。別に俺のクラスで何かあっても雅さんに何の責任もないのに、糸ヶ丘が危なかったから、素直に謝ってきた。


真っ赤になっている糸ヶ丘を見て、雅さんが心配そうに見る。多分、雅さんが離れないと、糸ヶ丘の顔は一生直らないと思うなあ。

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -