小説 | ナノ


▼ 17

「えーっ学祭って俺も働くの!?」
「当然でしょ」
「喫茶店くらい暇なやつでやってよ〜……」

前の席の糸ヶ丘を筆頭に、全員参加だという文句が飛んでくる。でも、俺がいたら絶対めっちゃ人来ちゃうじゃん。騒ぎになるからやめた方がいいって。

「だって俺が接客したら人めっちゃ来ちゃうよ!」
「じゃあ成宮くんは裏方仕事で」
「俺が裏方!?この顔なのに!?」
「成宮は何をしたいわけ」

横向きに座っていた糸ヶ丘が、呆れた感じでボヤいてきた。だって裏方仕事なら俺じゃなくてもいいじゃん。そう言ったけど「どこかのシフトには入るように」って注意された。面倒くさいな。

「糸ヶ丘は何するの?」
「接客」
「えー愛想悪いのに?」
「この顔だからね」

さも当然という態度で言う。顔がいいのは事実だけど、普通に自分で言ってくるのは腹立つんだよな。

「つーか女子の衣装って揉めてたのどうなった?」
「丈長いタイプに決まった」
「どれ?」
「えーっと、これ」

糸ヶ丘がケータイを見せてくれる。女子だけの連絡グループだ。ちゃんとクラスのグループに入っていて感心感心。


「……糸ヶ丘、お前これ着るつもり?」
「そうだけど」
「ダメ!絶対ダメ!」
「は?」
「ねえ委員長!女子の衣装決め直そう!」
「いや、成宮あんた何言って、」

「だって、こんな衣装着せてたら俺が雅さんにぶん殴られるって!!」

丈が長いのはよかった。俺的には短い方が好きだけどさ。あと、襟元も上までボタンが付いているのでセーフ。
でも問題はエプロンだ。胸元まであるタイプじゃなくて、お腹の辺りで終わっているやつ。ウエストの後ろで結ぶっぽい。

とどのつまり、胸が大きいと強調されちゃうデザイン。

(こんなの絶対、胸見ちゃうに決まってんじゃん)


「彼氏持ちがいるから、丈長いのにしたんだけど」
「それは分かる!正しい!だけどほら、これさ、」
「おーっと成宮!脚出させたいからってそんな意見は駄目だぞ〜」
「おい男子!お前ら分かっ……むぐっ」

他のやつらも絶対分かっている。そのはずなのに、隣の席の田中は俺の口を片手で塞いで、もう片方の腕で俺と肩を組んでくる。引っ張られるまま教室の後ろへ連れていかれ、数人がかりで俺を囲って来た。


「バッカだな成宮、うちの女子すぐカーディガン着るせいで、こんな時じゃないとスタイルわかんねーだろ」
「だからマズイんだって!俺が雅さんに殺される!」
「知らんふりしろ、糸ヶ丘が巨乳かどうかも知らねえだろ?」
「それはそうだけど……」

ちらりと、糸ヶ丘の方を盗み見る。他のクラスメイトは俺達の方を不振がって見ているけど、糸ヶ丘は全然興味なさそうに、ぼーっと黒板を眺めている。


「……確かに、糸ヶ丘って細いし胸ないかも」
「だろ?それなら普通に綺麗なメイドさんになるだけだって、な?」
「……脚出させなかったなら、雅さんも感謝してくるべきだよね」
「よし、決まりだ!」


いやあ、成宮の説得は疲れたぜ。なんて言いながら他の男子は各々自分の席に戻る。なんか俺が女子の脚見たがっていたっぽくなってしまったのは納得いかないけど、これで揉めても面倒くさいのでしゃーなしに黙っていた。

俺も席に戻れば、ようやく糸ヶ丘がこちらを見る。


「ねえ、さっきなんのこと言おうとしたの?」
「何が?」
「雅に怒られるって、この衣装だと駄目なの?」
「あー……それは、」

今更「胸強調するデザインだから」なんて言えない。これで糸ヶ丘が貧乳だったら普通にキレられそうだし。

「雅さん、メイド服っていえばフリフリのをイメージしてるかなって」
「決まったのはこれクラシカルなデザインだものね」
「期待しているデザインじゃないと落ち込むかもしれないじゃん」
「雅は別に、私がどんな恰好していても気にしないわよ」

「(どうだかなー……)」

そんなことを言いながら、文化祭の準備は進んでいく

しかし、もっと反対しておけばよかったと、俺は当日になって後悔することになる。

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