小説 | ナノ


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「雅の彼女は今日応援来ているんだっけ」
「ああ」
「ヒュー、流石だねえ!」

甲子園初戦、無事俺たちの快勝でスタートした。甲子園の宿泊先で、雅さんを煽る吉さん。雅さんはいつも通り、普通のテンションで返事をする。

「そうだ雅さん、糸ヶ丘って体調大丈夫だったの?」
「元気だってメールは来た」
「……メール?」
「あ?」
「メールじゃ何とでも言えるじゃん!電話で声聞きなよ!」

あいつのことだから、ぶっ倒れていたとしても雅さんには「平気」ってメールするに決まっている。そんなことも分からない駄目男だと思わなかった。

「つっても、バス移動で疲れてもう寝てんじゃねえのか」
「日焼け痛くて眠れないって言ってたから大丈夫だって!」
「なんで鳴が知ってんだ」
「メール来たから!」

自分だけ特別だと思っていたのか、雅さんはちょっと悔しそうにする。ふふん、そんな顔したって糸ヶ丘からメールもらった事実は消えないんもんね。だから、特別になりたいならさっさと電話してきたらいいんだよ。

「……仮に体調良くないなら、余計に電話している場合じゃねえだろ」

なーんて言い訳を始める雅さん。なんかだんだん腹が立ってきた。


「おい鳴、何やってんだ。お前もそろそろ寝て、」
「分かってるって!でも用事終わってからね!」
「用事って、お前電話するなら外へ……」


『もしもし成宮?』


通話が繋がったタイミングで、スピーカーに切り替える。雅さんは固まって、周りの奴らはニヤニヤしながら静かに集まってきた。糸ヶ丘は、全然気付いてない様子で呼びかけてくる。

「やっほー糸ヶ丘お疲れ!日焼けどう?」
『ちょー痛い、野球部尊敬する』
「ふふん、もっと尊敬してよね!」
『もっとって言われても、成宮個人を尊敬する気は微塵もないし』
「なんだとー!?」

いつもの調子で糸ヶ丘と会話をしてしまっていた。他のメンバーが俺と背中をつついてくる。分かっているってば、みんなが糸ヶ丘に聞いてほしいのは雅さんのことだ。俺だってその話題に持っていきたいのは山々だっての。

「つーか俺に何か言葉ないわけ?」
『次の日程決まったら教えて』
「はー!?」
『ウソウソ。お疲れ様、すごかったね』
「トーゼン!雅さんはどうだった?」
「おい鳴てめえ」

いよいよ俺の電話を奪おうとしてきた雅さんを、3年生たちが抑え込む。4人がかりで手足を掴んでいるってのに、流石はゴリラ、それでも俺の方に向かって歩いてくる。

「あーはいはい!雅はこっちで大人しくしてなー」
「、お前ら離せ!」


『……成宮、騒がしい場所にでもいるの?』
「んー?ロビーだからかな」
『そっか、旅館だものね』

あっぶねえ。雅さんが暴れるからバレちゃうとこだった。みんなが抑えてくれているから、俺も部屋の反対端へ移動して、スピーカーの音量を最大にした。


『雅はね、誰よりもかっこよかったよ』


それを聞いた途端、雅さんが見たことないくらい真っ赤になった。思わず、俺たちまで恥ずかしくなってくる。

「あーうん、まあ雅さんすごかったもんね」
『試合後のインタビュー?あれも観たんだけど本当かっこよかった』
「普通に無難なこと言っていただけでしょ」
『高校生が無難なこと言えるのが凄いの、誰よりも素敵だった』
「はい、うん、ソウネ……あっ」

抑えられていた雅さんが、いつの間にか他の三年生を振り払っていた。真っ赤な顔をして、俺のケータイを奪う。

「あっ」
『成宮どうしたの?ちなみにあんたのコメントは、』
「俺だ」
『……ま、雅!?』

俺だ。その一言を口にすると、雅さんはすぐスピーカーをオフにする。俺達に背中を向けて喋るもんだから、雅さんの声はあんまり聞こえない。糸ヶ丘の声も聞こえないはずだったけど、なんだか叫び声がした。スピーカーにしていないのに聞こえてくるって、どんだけデカイ声で叫んだんだよ。

「ああ、元気ならよかった……分かった、ありがとうな」

ピッ

短いやり取りをして、簡単なお礼を言って、雅さんは通話を勝手に切った。振りむいた顔はまだ赤かった。

「……なんて言われたの〜?」
「なんでもいいだろ」
「俺のケータイ借りたくせに、その言い様はないんじゃない?」
「知るか」
「ねえ雅さーん」
「うっせえ」

いつもは粘ると言ってくれるのに、今日は強気だ。それはいいんだけど、主将のイチャイチャを見て何とも言えない空気になっているのを、どうやって終わらせたらいいんだ。みんな恋愛不慣れなヤツばっかだから、めちゃくちゃ不自然にグローブの手入れや柔軟に散らばった。俺もさっさと布団に入っちゃおうっと。

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