小説 | ナノ


▼ 14

「あれ、糸ヶ丘髪型変えてんの?」
「聞いてよ、もう最悪」

今朝は後ろでひとつにまとめていた糸ヶ丘が、髪を下ろして二つに分けて、更に右側で三つに分けていた。
どうしたのか聞いてみたら、お気に入りだと言っていたヘアゴムを見せてくれる。なるほど、切れたのか。

「代わりのゴムは?」
「細いのしかないから、ポニーテール厳しいんだよね」
「でもなんで三つ編み?」
「毛先くくるだけなら細いゴムでも大丈夫なの」
「へー……」

俺と会話しながらも、右側にするすると三つ編みを作っていく。やっぱり慣れていると速いんだな。

「糸ヶ丘さんや」
「なに」
「左側やってもいい?」
「やだ」
「なんで?いいじゃん!」
「成宮三つ編みできるの?」
「できるって!ねーちゃんいるし!」

とはいっても、姉ちゃんに三つ編みしたのなんて小学校の頃以来だ。人使いが荒い一番上の姉に使われてよくやっていたけど、正直今もできるかって聞かれると、それは微妙。でも、糸ヶ丘の動きを見ていたら俺もできそうな気がしてくる。

「それならお願いしようかな」
「よし!」
「右側と揃えてね」

糸ヶ丘は右側の三つ編みを、いつの間にか完成させていた。ま、自分の髪を編むより他人の髪編む方が簡単でしょ。そう思った俺は、糸ヶ丘の後ろの席に移動して、髪を持ち上げる。


「うわっ」
「え、何?白髪でもあった?」
「めっちゃサラサラじゃん……何これ……」
「ふふん、綺麗に伸ばせているでしょう?」

自慢げにするだけあって、糸ヶ丘の髪はマジでさらさらだった。

「伸ばすだけでも信じられないのに、すっげー大変そう……」
「目的があると頑張れるものよ」
「目的?」

「のろけていい?」
「無理」
「あのね、雅がいつもね、」
「のろけるのかよ」

俺は後ろにいるから糸ヶ丘の顔は見えないけど、多分、すっげーだらしない顔をしているんだと思う。まだ顔が見えない分マシか。仕方ないからのろけ話を受け止める。

「雅って手繋いだりしてくれないんだけど、」
「ちょい待ち糸ヶ丘、これ年齢指定入る話じゃないよね?」
「16歳の成宮でも聞いていい話だよ」
「ならよかった」

雅さんのそういう話とか絶対聞きたくねえわ。違ってよかった。

「でもね、私が髪型変えたりすると、髪は触ってくれるの」
「へー……あ、それで雅さんと昼食った時はラプンツェルしてたのか」
「そういうこと」

そういえば、今日も糸ヶ丘の机には大きな保冷バッグがかかっている。それでお気に入りのヘアゴムを付けてきていたのか。そんでもって、それが切れたってなったらわざわざ三つ編みして。

「今日も雅さんと?」
「えへへ」
「じゃあ気合い入れて編んであげないとね〜」
「よろしく頼みます」

別に糸ヶ丘の髪型が決まろうが決まらなかろうが俺には関係ないけど、雅さんと会った時に「左側は成宮がやった」って糸ヶ丘が言うかもしれないから、馬鹿にされないようにしなきゃ。いや、そもそも他の男に髪触らせるのってセーフなのかな。アウトだったら糸ヶ丘が雅さんに言わないだろうし、まあいっか。

「……ッシャ、完成!」
「あら、意外と綺麗」
「だろ?」
「下手だったら直そうかと思ったけど、このままでいいや」
「失礼だな」
「ごめんって、上手いよありがとう」

細いゴムで止めた三つ編みの先っぽを、糸ヶ丘の目の前に出してやる。それを受け取った糸ヶ丘は自分で編んだ右側とバランスを比べて、満足そうに頷いた。ふふん、流石俺。雅さんもこれなら俺がやったって気付けないかもね。





なんて思っていたのだが、昼休憩から戻ってきた糸ヶ丘の髪型は、なんだか歪になっていた。

「糸ヶ丘おかえり〜」
「ただいま」
「……なんか右側の三つ編みおかしくない?」
「えっ!?そ、そう?」

両手で指摘された右側の三つ編みを撫でながら、糸ヶ丘の声が上擦る。あ、分かった。

(雅さんにやってもらったんだなー)

何もなかったら、雅さんがやるって言い出さないと思う。どうせ俺がやったって糸ヶ丘がバラして、そんで嫉妬した雅さんが右側やったとかそういう感じかな。

「ちょっと傾いてない?直してあげようか?」
「結構です」
「えーだいぶアレだけど」
「いいの、放っておいて」

いつもなら身だしなみにめちゃくちゃ気を遣うくせに、今の変な方向に出ている三つ編みはいいらしい。俺の方が綺麗に編めたのに、糸ヶ丘はずっと右側の三つ編みを撫でていた。

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