小説 | ナノ


▼ 13

「糸ヶ丘何やってんの?宿題忘れた?」
「成宮と一緒にしないで」

登校してきたら、必死に勉強している糸ヶ丘がいた。こんな朝っぱらからノート開いているなんて、宿題以外にないでしょ普通。

「じゃあなんで勉強?」
「もうすぐ中間テストだから」
「一カ月も先だけど」
「一カ月しかないの」

ガリガリガリガリ。俺と会話しながらも、糸ヶ丘は顔をあげない。

「糸ヶ丘って案外勉強できるよね」
「ありがとう」
「大学行くの?」
「そりゃあね」
「どこの?」
「……」

そこまで聞くと、黙ってしまった。大体のヤツがこう聞いても「まだ決まってない」と返してくるから、糸ヶ丘もそう言ってくるかと思ったのに、予想していた反応と違う。もしかして、もう決まっているのかな。

「進学先もう考えているわけ?すげーじゃん」
「すごくはない……うちそこまでお金ないから、選択肢限られてくるの」

そう言ってくる。なんか申し訳ない話題振っちゃった気がする。なんとか話題を換えよう。

「あ、でも雅さんの球団に着いて行くーとかってしないわけ?」
「何よ、球団に着いて行くって」
「……雅さんプロ志望なの知っている?」
「そのくらいの会話はしているわよ」
「……じゃあ、球団が全国各地にあるのも知ってる?」
「失礼ね、私を何だと思って、」

「言っておくけど、選手側からどこ行きたいって選べないからね」


それは知らなかったのか、糸ヶ丘が絶望的な顔をする。シャーペンを置き、急いでケータイを開いた。覗き込めば、『プロ野球 場所』って検索している。場所ってなんだよ、本拠地とかだろ。案の定球場の場所が出なかったので、”本拠地”って単語を教えてあげた。

「え、成宮、プロって各球団の本拠地って場所に住むの……?」
「そりゃ近くに住むでしょ」
「北海道まである……」
「雅さん日ハムのユニフォーム似合わなさそ〜」
「にちはむ……」

それを聞いて、糸ヶ丘は食品会社の採用ページを開く。


「待て待て、お前何考えてんの?」
「にちはむに就職する」
「いや、まだ球団決まってないから」
「でも調べておいて損はないじゃない」

割と本気みたいで、シャカシャカとスクロールさせている。他の球団の親会社も調べ始めた。カープに指名されたらどうするつもりなんだろ。

「多分だけど、日ハム入っても雅さんとの交流なんてないと思うよ」
「そうなの?」
「プロ野球選手が親会社社員と結婚〜なんて聞かないし」
「なら私はどうすればいいの?」

そんなことを真剣に聞いてくる。知るか。普通に付き合い続けて、普通にプロポーズされたらいいじゃん。

「とりあえず、雅さんがどこ行くか次第じゃない?」
「そっかー……でも北海道はヤだな、寒いの苦手」
「つーか雅さんが日ハム行ったら北海道に進学するわけ?」
「うん、国公立なら学費安いし」

結局、また糸ヶ丘家の話題に戻ってしまった。こいつの家の金銭事情はしらないけど、稲城に進学してきたくらいなら別に貧乏ってわけでもないよな。それよりも、雅さんに合わせて全国飛び回るつもりなことの方がよっぽどやべーよ。

「成宮、疑問があるんだけど」
「ん?」
「野球している人って、どこの球団行きたいって希望はないわけ?」
「あっても言うわけないよね」
「なんで?」
「他の球団に選ばれたらすっげー気まずいし」
「なるほど」

つい5分前までドラフトのシステムすら分からなかったのに、記者みたいな発想をする糸ヶ丘。選手に無理やりどこの球団ファンか言わせてうざったるい記事載せたりするところはいまだにあるけど、なんでその考えにはすぐたどり着くんだ。

「ちなみに成宮は?」
「は?言うわけねーっての」
「あ、その言い方はあるんだ」
「だーもう!うるさいな!言わないから!」
「えーつまんないの」

糸ヶ丘が言いふらすとは思えないけど、こいつは頭いいのにバカだから変なところで口滑らしかねない。

「ねえヒント、ヒントだけちょうだい」
「ヒントって何!?あげないし!」
「本拠地の球場は?」
「それもうヒントじゃなくて答えだろバーーーカ!」


マジで、絶対に言わないって決意した。雅さんにも注意するよう言っておかないと。思ったよりもあんたの彼女は頭弱いぞって。

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