小説 | ナノ


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練習試合からの移動中、何もついていない雅さんのエナメルバッグを見て、ふと思った。

「雅さんってさあ」
「なんだ」
「糸ヶ丘からお守りもらったりしていないの?」
「してねえ」

俺の方をちょっとだけみて、それだけ言って、またズンズン歩いていく雅さん。何とか追い付いて隣を歩く。

「でも、糸ヶ丘って裁縫得意なんでしょ?」
「そうだな」
「背番号も結局つけてもらって?」
「……ほっとけ」
「雅さんは彼女の手作りお守りほしくない!?」

そこまで聞けば、雅さんはぎゅっと眉間に皺を寄せる。これは照れてるやつだ。

「作るのは俺じゃねえんだから」

それもそうだ。

言われて気付いた俺は翌週、”作る方”に聞いてみた。





「ねえ、糸ヶ丘は雅さんにお守り作らないの?」
「お守り作るって何?お守りは買うものでしょ」
「あーやっぱりそうくるよなー」

運動部の彼女といえば、大切な試合前に手作りのお守りを渡して「これで頑張ってね!」なんて可愛く応援するのが定番だ。それを糸ヶ丘に告げれば、周りの友達に「そうなの?」と聞いている。俺の言葉を信じろよ。

「かのえちゃん次第だけど、結構つくる人いると思うよ」
「……初耳」
「で、作ってあげるの?どうなの?」
「うーん……でもお守りって作ったことないし」
「そんなの簡単じゃん!布買ってユニフォーム型にすればいいんだから!」
「成宮、作ったことあるの?」
「ない」
「よくもまあ簡単なんて言えたわね」

でもパパッと背番号縫える(俺の背番号はその場で縫ってくれた)(そのせいで他のやつらにもバレて、雅さんにキレられた)くらいなんだから、お守りくらい楽勝だと思う。

「ユニフォーム……あれ?半袖だっけ?違う?」
「覚えてないの!?ドン引き」

つい先日背番号を縫ったばかりだけど、インナーとか何も覚えていないっぽい。

「だって雅、いつもガチャガチャしたの付けているじゃない」
「防具な」
「そう、防具」
「ユニフォームなー、写真あるかなー」

そう言って、自分のケータイから野球部で集まっている写真を探す。糸ヶ丘は見てもいいか聞いて、俺のケータイを一緒に覗き込んでくる。途中、雅さんがすげえ変な寝相している盗撮があったので、それはジュース1本奢ってもらう約束をして、糸ヶ丘のケータイに送ってあげた。俺優しい。

「こんな感じ」
「言われてみるとこんなだった気がする」
「ずっとこんなだよ」
「でも、ユニフォームって難しくない?」
「背番号書いておけば、ユニフォームっぽくみえるって」
「そうかな……頑張ってみようかな」

ぶつぶつ言いながら、糸ヶ丘は放課後のスケジュールを考えているらしい。さっそく今日、買い出しに行くみたいだ。行動がはやい。


***


「成宮」
「ん?」
「おはよ、あげる」

端的な言葉と共に、糸ヶ丘から何かを突きつけられる。反射的に右手を出せば、そこにふんわりと白い物が乗る。

「……お守り?」
「そ」
「えっなんで俺に!?」
「雅の作るついで。布余ったし」

手のひらに収まるくらいの大きさのそれは、1の番号が書かれた稲実のユニフォーム。反対側には、しっかりINASHIROと入っている。ペンじゃなくてちゃんと別の布で貼ってある辺り、手の込みようが伝わってきた。


「え、いや、ありがたいけど……雅さんキレない?」
「そんなことで怒らないでしょ」
「えー……多分キレると思う」
「どっちにしろ、あんたが頑張らなきゃ雅は負けるんだから」

ちゃんと頑張ってよね。そういって自分の席へ座る糸ヶ丘。ちょっとこれは、まずい。絶対怒られる。でも、嬉しい。平常心をキープしながら、もう一度話しかける。

「他の連中には?」
「ない」
「なんで俺だけ?」

特別なのかと思って、ちょっとだけ緊張しながら聞いてみた。


「背番号知っているの、成宮しかいなかったから」


だけど、バッサリ切り捨てられる。そうだね、お前はそういうヤツだね。

「……ね、これ鞄に付けてもいい?」
「いいけど……あんまり丈夫じゃないわよ」
「だいじょーぶ!物は大切にするタイプだから!」
「本当かしら」
「雅さんにも付けてもらおーっと」
「……」
「……糸ヶ丘サーン、ニヤけてますよー?」
「う、うるさいわね」

お守り文化も知らなかったレベルなのに、何だかんだで付けてもらえるってなると嬉しいらしい。俺のおかげでお守りもらえたんだって雅さんにアピールしておけば、あんまり怒られないかな。そうだといいな。

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