小説 | ナノ


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「糸ヶ丘って家庭部の男で知り合い居る?」
「いない」
「お前友達少ないもんな」
「何?殴られたいの?」

案の定糸ヶ丘の知り合いにはいなかった。交友関係狭そうだし、あんまり期待はしていなかったんだけどさ。

「成宮のそのピンポイントな人探しは何なの?」
「裁縫できる男探してんの」
「なんで」
「背番号縫ってもらう」
「背番号って取れるんだ」

そこからかよ。

「というか、縫うだけなら男である意味は?」
「エースナンバー縫ってなんて、女子に頼んだら勘違いされそうじゃん?」
「何を?」
「何をって、そりゃあ……」

背番号を縫ってもらうのって、特別な感覚だった。だってはじめて背番号もらった時も、1番をもらった時も、母さんはすごく喜んでくれたし。

それに、彼女持ちはわざわざ彼女に頼むくらいだから、そりゃあテキトーにその辺の人、ってわけにもいかない。

「縫うだけなら今やってあげるけど」
「は?」
「今持ってないの?」
「持っているけど……流石に不味くない?」
「何が?」

雅さん絶対怒ってくるじゃん。でも何がって言われると、うまく説明できない。いや別に説明してもいいけど糸ヶ丘に「背番号付けるくらいで何言ってんの?」って鼻で笑われそうだし。

「ほら、糸ヶ丘は雅さんから頼まれるだろうし」
「雅は裁縫くらい自分でするわよ」

「いやー雅さん裁縫はしないんじゃないかなー?」
「なんで?ボタンも自分で付けれるのに」

「でも背番号は、ほら、あれじゃん」
「意味わかんない。雅に迷惑かけるくらいなら私がやったげる」

ほら、と言って手を出してくれる糸ヶ丘。なんで今回に限って優しいんだよ。いつも「ノート貸して」って言っても「お菓子くれ」って言っても文句言うくせに。


「……お願いします」


結局、この背番号の重さを説明できなかった俺は、ユニフォームと、「1」と書かれたそれを糸ヶ丘に渡すことになった。


***


ゲシッ


「痛ったい!!何!?」

寮でテレビを見ていたら、突然背中に衝撃。誰だと思って振り向くと。

「げっ雅さん」
「その反応は、何言われるか分かっているようだな」

すっげえ不機嫌、っつーかキレてる雅さんがいた。マズイと思って自分の部屋に逃げようとしたけど、太い腕が首に回ってくる。

「ま、待って!俺が頼んだわけじゃないから!」
「じゃあアイツが勝手に縫ったってわけか?あ?」
「ほぼほぼそんな感じだし!わわわわギブギブ!首!ぐび!じまっでる!」

バンバンと雅さんの腕を叩けば、ちょっとだけしまっている力が緩む。だけどまだ逃がしてはくれない。

他の連中も助けてくれない。どうせいつものことだと思っているっぽいけど、俺には分かる。これはマジでキレている。

「だ、だって糸ヶ丘が!糸ヶ丘が縫い物できるっていうから!」
「だからってよく頼めたな」
「雅さんに迷惑かけるくらいなら縫うって!向こうが!」

そういえばようやく腕がほどかれた。いや、ほんと、マジで死ぬかと思った。


「はー……死ぬかと思った」
「死なねえよ」
「つーか!雅さんがさっさと頼んでおけばよかった話だからね!?」
「あ?」
「だって糸ヶ丘、背番号縫うことの特別感なーんもないんだから!」

考えてみればそうだ。俺が話題にするより先に雅さんが糸ヶ丘に頼んでいたら、「背番号を縫うのは特別なことなんだ」って糸ヶ丘も気付いたと思うのに。糸ヶ丘の口ぶりから雅さんには頼まれていないっぽいかった。

(あ、そういえば)


「雅さんは背番号、糸ヶ丘に頼むの?」
「そのつもりだ」
「糸ヶ丘、雅さんは自分で縫うと思っているよ」

「……あ?」
「雅は裁縫できるから〜自分のことは自分でするわよ〜ってさ!」

これから頼むつもりだろう雅さんに、残酷な事実を突きつける。まあ、何も知らずに頼みに行くよりいいと思う。「縫うくらい自分でやれ」って思っている彼女に、背番号縫ってくれって言いに行くのすっげー気まずいだろうな。


「あーあ、雅さんは何でもできるって褒めていたのになー!」
「……うっせえ」
「裁縫もできない男だなんてなー!かのえちゃんショック受けないかなー!」
「名前呼ぶな」


イライラしながら雅さんは戻っていった。ぷぷっざまあみろ。

なんて思っていたけど、翌週、嬉しそうにしている糸ヶ丘のケータイを覗き込んだら、壁紙が「2」になっていたので、結局頼んだっぽい。なんて言って頼んだんだろ。すっげー気になるけど、どっちに聞いても教えてくれなかった。

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