小説 | ナノ


▼ 08

「……糸ヶ丘?」
「うわ、成宮じゃん」
「うわって何!?」

買い出しに来た先で見つけてしまったのは、糸ヶ丘かのえ。私服だと雰囲気変わるもんだな。前に試合きていた時の変装はマジで誰か分からないレベルだったけど。

「つーか糸ヶ丘って私服地味だね」
「は? Tシャツの成宮に言われたくないんだけど」
「男はこんなもんでしょ、女子ならもっとふわふわ可愛いのあるじゃん」

コイツの私服、野球観戦以外で初めてみたけど、案外サッパリした服を着ていた。よく言えばシンプル。ぶっちゃけると、地味。

「一人で買い物来るのに着飾る意味ある?」
「そうだけどさ」
「それに、いちいち声かけられたりするの嫌いなの」
「あー……そういうことね」

なるほど、男除けでこんな恰好をしているのか。でも逆に、大人しそうに見えるから声かかりやすい気もするけど。どっちにしろ、糸ヶ丘だったらナンパでも余裕で追っ払いそうだもんな。

「というか、そろそろ行ってもいい?」
「ん?」
「休みの日に知り合いと会いたくないタイプなの」
「お前は確かにそれっぽい」
「ということで、またね」
「あー待て待て」

あっさりさろうとする糸ヶ丘の腕を掴み、無理やり止める。糸ヶ丘はイラッとした顔をした。顔立ちハッキリしているから、表情分かりやすいんだよな。いや、顔立ちっていうか、糸ヶ丘の性格の問題が大きいんだろうけど。

「糸ヶ丘は今からどこ行くの」
「……別に、テキトーに」
「スポーツ店行くなら一緒に行こうよ」
「絶対嫌」

嫌ってことは、どうせ行くつもりだったんだろう。反対方向に歩いて行こうとする糸ヶ丘の腕を無理やりひっぱり、スポーツ店の方へと向かう。途中で糸ヶ丘も諦めたようで、腕を離したけど着いてきてくれた。




「……なんで私が成宮と」
「いーじゃん、どうせ暇なんでしょ」
「成宮に割く時間はない」
「なら雅さんのためだったら?」

ぱちぱちと瞬きをしてこちらを見てくる。そういえば、糸ヶ丘と並んで歩くのってあんまりないかも。見上げられる形になるから、ちょっと変な気分。

「雅さんもうすぐ誕生日だからさ」
「うん」
「なんかあげようかなーって思って」
「……私が着いて行く必要ある?」
「プレゼント被ると嫌だし」

別に雅さんが同じ物もらって持て余したりするのはどーでもいいんだけど、「彼女と同じ物を渡した」ってなったら気持ち悪いからそれは避けたかった。

っていうのは言い訳として、本当の理由は買い物に時間取られたくないからなんだけどね。

(流石に糸ヶ丘レベルの女がいたら、声かけてくる人いないだろうし)

ぶっちゃけると、女除け。性格アレだけど、この顔面の女連れていたら声かけて来る子いないでしょ。

「私はTシャツプレゼントする」
「糸ヶ丘はもう買ったの?」
「まだ。でも何ほしいか聞いた」

だというのに、糸ヶ丘はアッサリと買う物を教えてくれる。つーかそういうのって、何がもらえるのかなってワクワクするもんじゃないの?なんで本人に欲しい物聞くんだよ。でもTシャツって案はいいな。糸ヶ丘と渡すプレゼント被るのヤだったけど、デザイン違ったらいいかな。

「ロマンティックが足りないな〜」
「要らない物渡すよりいいでしょ」
「それはそうだけどさー……」

思考回路まで雅さんみたいだ。ああでも、もしかしたら雅さんが糸ヶ丘の誕生日とかに同じことしたのかもしれない。そうじゃなかったとしても、「欲しい物は聞いていい」って分かったら雅さん安心しそう。女子にプレゼントとか全然しなさそうだし。

「ということで、さようなら」
「わー待って待て待て!」

仕方ないので、正直に理由を話す。女除けです。


「ひとりでいると声かけられること多いんだよー……」
「あんたキャーキャー言われるの好きじゃないの?」
「そうだけど、今日はさっさと買い物して帰りたい」
「……ま、私も同じだからいっか」

糸ヶ丘の買い物にも付き合うという条件で、結構すんなりとOKをもらえた。ああそうか、糸ヶ丘も男除けでこんな恰好しているんだった。



「成宮は何渡す予定なの?」
「んーーーーすげえ派手なタオル」
「なんで派手にするの」
「だって雅さんがめっちゃ可愛いタオル使っていたら面白くない!?」
「その感覚は分からない」

スポーツ店に着いて、ふらふらとテキトーに歩く。

「成宮、そこバレーボール用品」
「野球以外の場所知らね、タオルどこにあるんだろ」
「……ったく」

俺の後ろを着いてきていた糸ヶ丘が、俺の右手の裾をちょんと摘まんで引っ張ってくる。そのままついて行くと、色んなブランドのタオルやバッグが並んでいる場所に来た。

「……糸ヶ丘のが詳しいと思わなかった」
「むしろ成宮はなんでタオルの場所すら知らないの」
「だってー、差し入れでたくさんもらうしぃ?」
「……あっそ」

タオルを見る俺と反対の棚を見ている糸ヶ丘。顔は見えないけどあからさまに声が低くなって、なんか引っかかった。あ、そうか。

「甲子園で活躍したから、俺以外も結構差し入れもらうんだよね」
「へー」
「控えでも受け取るやついるけどレギュラーは別格でさ」
「……そう」

分かりやすく落ち込んだ声になる糸ヶ丘の返事を聞いて、予想通りの展開にニヤついてしまう。続き言ったら、こいつどんな反応するんだろう。


「……でも、雅さんは全部断っちゃうんだよねー」


糸ヶ丘の背中を見ながらそう言えば、糸ヶ丘もバッとこっちを振りむいた。まさか俺も振りむいているとは思わなかったんだろう。目があった瞬間、ばぁっと顔が赤くなる。

「……すっげー嫉妬してんじゃん」
「べ、別に嫉妬なんてしてないし」
「雅さんは男女問わず人気だから、心配になるのも分かるよ」
「だから!別に雅が人気だったらそれで!」
「痛っ!殴るのやめてくれない!?」

立ち上がってこっちにきて、鞄でガンガン俺の背中を叩いてくる。力はないけど、金具が当たって普通に痛い!

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