小説 | ナノ


▼ 05

「糸ヶ丘って予選も応援来るの?」
「……行かない」
「なんで?」

糸ヶ丘のノートを写している時に何となーく話題を振ってみたら、意外な返事。付き合う前は散々来ていたのに、なんで突然。

「去年の夏に倒れたのバレちゃって」
「お前って病弱キャラだっけ」
「貧血起こしやすいの」
「あー夏って貧血起こす人多いよね」

外の部活のやつらとか、慣れない一年だと休んでいるのを見かけたりする。ああいうの見ると、俺は健康優良児で良かったなーって思う。でも。

「影にいれば見れるんじゃないの」
「雅が体調悪い時は来るなって」
「毎日体調良いって言っておけば?」

せっかく色々提案してやっているっていうのに、糸ヶ丘は文句ばっかり言ってくる。面倒くさいな、テキトーに言い訳して来たらいいじゃん。

「……流石に一カ月丸々っていうのは無理があるでしょ」

貧血・体調・一カ月。

「あ、なるほど」

何でも開けっ広げに喋る糸ヶ丘がめずらしく言いにくそうにしていると思ったら、そういう理由か。

「雅さんそういうの分からないって」
「成宮は雅のこと何だと思っているの」
「だって男兄弟しかいないし、雅さんガサツだし」
「姉も妹もいなくたって、雅は気遣いできるのよ」
「えー嘘だ―」
「むしろ成宮はお姉さん二人いるけど何か気遣いあるわけ?」

聞かれたけど、よく考えたら男兄弟にそういうこと言ってくるやついなくない?
イライラするって人もいるらしいけど、姉ちゃんたちは年がら年中イライラしているし。だから、雅さんなんて余計気付けないと思う。

「まー成宮家はそういうのなかったけど」
「あっそ」
「だから雅さんも分かんないって」
「それが、案外気付くのよ」
「えっ雅さんキモ」
「言っておくけど、そのことじゃなくて、体調不良全般にだからね」

ああなるほど。糸ヶ丘の体調不良には気付けるけど、原因までは分からないってことか。

「確かに、俺が立ち眩み起こした時もすぐ気付いてたな」
「は?何それ自慢?」
「これ自慢に聞こえるのやべーよ」
「雅に心配してもらえるのずるい」
「じゃあ糸ヶ丘もぶっ倒れたらいいじゃん」

だんだん会話が面倒になってきた。それなら試合の応援にきて、気のすむまで雅さんを観て、そんでぶっ倒れたらいい。投げやりに振れば、糸ヶ丘は不貞腐れる。

「……でも迷惑かけたくない」
「もーお前マジで面倒くさいな!」
「だから応援行かないって言っているじゃん!」

ツンとして、会話を止めた糸ヶ丘。落としどころが分からないから、俺もこれで終了、ってしたかった。

だけど、いくら何でも、彼女に応援来るなっていうのは可哀想だなって思う。野球漬けだから会えないのに、応援すらさせないっていうのは、雅さん流石に理不尽。

「……元気な日くらい対策したら見れるでしょ」
「……雅には絶対言わないでくれる?」
「ん?」

「ぶっちゃけると、こっそり観に行くつもりではいるの」


行くのかよ。心配して損した。


「……俺の優しさ返してよ」
「は?今の成宮から優しさなんて微塵も感じられなかったんだけど」
「糸ヶ丘が可哀想だと思って!雅さん注意しようと思ったのに!」
「雅が来るなっていうのは雅の優しさなの」

だからそれはそれでいい。そう納得している糸ヶ丘を見て、なんかイライラしてきた。週末、試合に来たら雅さんにチクってやる。そう固い決意をした。

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