小説 | ナノ


▼ 03

「糸ヶ丘って誰にでもその態度なわけ?」
「私が猫被れると思う?」
「無理そー」

糸ヶ丘に俺の爪を塗ってもらいながら、そんな会話をする。なんでそんなことをしているのかっていうと、練習前に雅さんがやってくれたりすることもあるって喋ったら、糸ヶ丘が「雅にそんな手間かけさせられない」って言い出したから。

「ちょっと糸ヶ丘、丁寧に塗って」
「補強さえできればいいでしょ」
「ムラあると気になるじゃん」
「面倒な男ね、爪の一本や二本」
「十本あるんだけど」

半分くらいは「やってみたい」っていう好奇心だと思うけど。こいつ、意外にネイルとかしなくて、短く切りそろえているんだよな。

「成宮はめちゃくちゃ猫被るよね」
「そりゃ裏で好き勝手言われるの腹立つし」
「あー確かに分かる」
「えっ糸ヶ丘って悪口気にするタイプなの?」

これも意外。誰から何言われようが気にしないんだと思っていた。

「そりゃ当然でしょ」
「私は私、ってタイプだと思ってた」
「”私”は”雅の彼女”だからね」
「あー……そういうこと」

つまり、自分が雅さんの彼女だから、評価を下げたくないらしい。

「本当は悪口言われたらすぐ殴りたいんだけどさ、」
「怖えよ」
「でも、そんなことしたら雅の評価も下がるから我慢しているの」
「我慢できてよかったよ」

俺だって、自分のバッテリーが彼女原因で話題になるとかちょーイヤだ。糸ヶ丘に理性があって本当によかった。

「……塗れた!」
「お疲れ〜」
「どう? 結構上手いんじゃない?」
「うーん、70点くらい」
「嘘でしょ!?」
「雅さんのが上手い」
「雅は何でもできちゃうからね」

俺の爪をそこそこ綺麗に塗った糸ヶ丘は、コーティングを返してくれるのかと思いきや、自分の爪に塗り始める。

「何で勝手に使ってんだよ」
「私も塗っていい?」
「許可遅いよ、別にいいけど」

女子なのに全然ネイルしないらしい。むむと顔をしかめながら自分の爪を睨む糸ヶ丘。

「……やってやろうか」
「え、いいの?」
「なんか零されたりしそうだし」
「やった、ありがと」

そう言ってハケと左手を差し出す糸ヶ丘。

「つーか糸ヶ丘は爪補強する必要ないじゃん」
「明日はクラスマッチでしょ」
「何出るんだっけ」
「……成宮ってとことん私に興味ないよね」
「お前がドッジボールで顔面食らわないかなって興味はある」
「種目、知っているじゃない」

喋っていたら思い出した。こいつ、確かドッジボール出るんだ。ソフト出たらって勧めたのに「雅の彼女が野球っぽい競技が下手って思われたら嫌」とかいう謎の理由で拒否された。別に誰も彼女にまで能力求めないっての。

「成宮はサッカーだっけ」
「そ。俺は何でもできちゃうからさ〜」
「怪我しないようにね」

突然優しい言葉をかけられて驚いてしまう。ハケを塗る手を止めれば、自分の爪を眺めていた糸ヶ丘の顔があがる。

「なんで黙るの」
「……糸ヶ丘が俺に優しい」
「そりゃあんた、サッカーなんて接触競技出るんだから当然でしょ」
「ま、俺は雅さんの相方だもんね」
「失礼ね、普通にクラスメイトとして心配してやっているのに」

小さくため息をついて、糸ヶ丘はまた自分の爪に視線を戻す。危ない、ちょっとニヤけるところだった。


「……糸ヶ丘も顔面でボール受けないようにね」
「さっきと言うこと真逆だけど」
「あと、他の女子に喧嘩売ったりしないでね」
「成宮は私をなんだと思っているわけ?」


ちょっとイライラしながら糸ヶ丘が返事をする。うん、やっぱりこの調子が俺と糸ヶ丘だ。そう思っていたけれど、このやり取りは糸ヶ丘にとって意味がなかったと、俺はクラスマッチ当日に知ることとなる。

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