小説 | ナノ


▼ 13

「さむ」
「ほんとにね」

日も落ちてきて気温が下がってきた。身体を鍛えていても、着込んで丸っこくなっていても、やっぱり寒いのは私と同じらしい。彼のぼやきに私も同意する。

「……はやくラーメン食べたい」
「チャーハンじゃねえの?」
「チャーハンじゃ暖が足りない」
「確かに」

あれだけ文句言ってチャーハンの美味しい店を選んでもらったのに、私の心変わりをすんなり受け入れてくれた。

「お店ってどの辺り?」
「もうすぐー……のはず」
「……真っ暗だね」

鳴オススメのラーメン屋は、住宅街から少し外れたところにあるらしい。しかし、その通りに入っても明かりの付いた建物はない。

「げ、」
「?」

「閉まっているかも」

私の歩調に合わせてくれていた鳴が、少し小走りで先を行く。私はそのままのペースで追いかけてみれば、”年末休業”の木板がかけられた店がある。

「……嘘だろ」
「あちゃー残念だったね」
「ラーメン屋くらい大晦日までやってよ!」
「蕎麦屋じゃないんだから」
「えー……せっかく来たのに」

木板の前で立ち呆ける鳴を見て、代替案をあげてみる。

「もうひとつの中華料理屋は?」
「……電話してみる」

そういって、ケータイを取り出しシャカシャカと指を動かす。耳に当てて待つも、どうやら電話口からはコール音しか聞こえない様子だ。

「……っどこもかしこも!」
「年末だもんね」
「しくったー……どうしよ」

ずるずるとしゃがみ込んだ鳴を見て、私も考えるかなあとケータイを開く。高校時代ヒマしていた分、鳴よりかは色々と回っているはずだ。

「あ、そうだ」
「?」
「ちょっと遠いから、電車乗ってもいい?」
「……いいけど」

あの店なら毎年年末までやっていた。駅まで向かう途中で一応SNSで検索してみると、やっぱり営業しているようだ。夕飯には無事ありつけそうだと安心して、時間体ゆえか、空いた車内でまた、他愛ない話をして移動した。



「……青道じゃん」
「高校近くの店なの」

最寄り駅は知らなかったのか、電車を降りた時はキョロキョロしていただけだったのに、高校がみえたらしかめっ面になってしまった。

「……まさか他のヤツいるとか言わないよね」
「言わないよ」
「偶然いたり」
「そこは何とも」

流石にそれまでは分からない。だけど駅から歩いてくる道のりで他の店が真っ暗だった様子をみるに、おそらくここに来るのが正解だったと思う。

「美味いの?」
「うん、チャーハンが絶品」
「ラーメンの気分って言ってなかったっけ」

そういえばそうだった。この店にきたらいつもチャーハンを食べていたけど、さっきまでラーメンの気分だった。忘れていたのに、鳴に言われて思い出すと、途端にラーメンの気分が戻ってきてしまった。

「鳴はいっぱい食べられる人?」
「そこそこに」
「じゃあチャーハンセットにしよう」
「分けろって?」
「うん」

そう伝えれば、「仕方ないなあ」って言いながら私の隣を歩いてくれる。のれんのかかっている店が見えた。こんな時期なのに、繁盛しているようで何より。

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